公募研究
パルスレーザー堆積法(PLD)を用いて作製した鉄カルコゲナイド超伝導体FeSe1-xSxの薄膜において、低エネルギーミュオンを用いたミュオンスピン緩和(μSR)測定を行った。その結果、Sを高濃度に置換したx=0.3と0.4において低温でスピン相関が発達し、低温で短距離の磁気秩序が形成されることを見出した。これらの試料ではTcが低下しており、また電子ネマティシティが消失している。これらのことから、磁気秩序と超伝導が競合関係にある可能性が高いと結論した。電子ドープ型銅酸化物La2-xCexCuO4の薄膜をPLDで作製し、様々な還元を施した試料を用いてμSR測定を行った。その結果、超伝導がほとんど消失しているx=0.17では還元とともにTcが放物状に変化すること、Tcがもっとも高い組成でスピン相関が発達することを明らかにした。これは、ホールを過剰にドープして超伝導が消失する試料ではスピン相関が発達しないというホールドープ型の結果とは対照的である。鉄カルコゲナイドFeTeの薄膜をPLDで作製し、ポストアニールによって酸素を注入した試料を作製した。その結果、10K以下の低温で電気抵抗率が急激に減少する振る舞いを見出した。これは、酸素の注入でキャリアがドープされて超伝導が発現したためと考えられる。また、電気抵抗率のブロードなピークが残っていることから、低温で反強磁性秩序が形成されている可能性がある。これらの結果は、酸素をドープしたFeTe薄膜において磁性と超伝導が共存している可能性を示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
鉄カルコゲナイドFeSe1-xSxの薄膜において、磁性と超伝導の競合関係を見出せたことは重要な進展である。電子ネマティシティとの関連についての知見が得られたことも重要な成果である。これらの結果は電子ネマティシティ、超伝導、磁性の三者相関を明らかにする一歩となる。T'構造銅酸化物La2-xCexCuO4の薄膜において、超伝導とスピン相関の発達に対応関係がない可能性があることを見出した点は特筆に値する。これまでの理解を打ち破る可能性があるとともに、提案されている強磁性との関連が注目されている。鉄カルコゲナイドFeTeに関しては、酸素アニールによってキャリアドープ量の制御を試みたが、思うようにはできていない。今後はアニール時間と温度、基板の種類を変えるなどして、より最適なアニール条件を見出していく。これらのことから、今年度は概ね期待通りの進展と判断した。
鉄カルコゲナイドFeSe1-xSxの薄膜における電子ネマティシティ、超伝導、磁性の三者相関を明らかにするために、Sの代わりにTeを置換した薄膜を作製し、μSR測定を行う。また、母物質のFeSeの厚膜を作製してミュオンの打ち込み深さを変えた測定を行い、スピン相関の発達に対する基板の影響を明らかにする。鉄カルコゲナイドFeTeに関しては、酸素アニール時間と温度、基板の種類を変えるなどして、より最適なアニール条件を見出し、輸送特性の測定などから超伝導の発現メカニズムの解明を目指す。ハニカム格子を有するBaPtAs1-xSbxにおいてμSR測定を行い、超伝導状態での自発磁化の有無、自発磁化に対する乱れの効果を明らかにし、カイラルd波状態の実証を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
Physical Review Research
巻: 2 ページ: 032070(R)(1-7)
10.1103/PhysRevResearch.2.032070
http://www.ph.sophia.ac.jp/~adachi/