研究領域 | 変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot |
研究課題/領域番号 |
20H05166
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金田 幸恵 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特任助教 (80727628)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 台風 / 温暖化 / 豪雨 / 激甚化 |
研究実績の概要 |
本申請課題の目的は、日本に接近・通過して災害をもたらす中緯度の台風に対する温暖化の影響及び温暖化がさらに進んだ気候系における中緯度台風の将来変化を、高解像度大気海洋結合領域モデルCReSS-NHOESを用いた数値シミュレーションによって明らかにすることである。 この目的を達するために、近年、日本に大きな影響を及ぼした顕著台風としてTyphoon Trami (2018)に加え、2019年東日本の広範に豪雨災害をもたらした令和元年東日本台風(Typhoon Hagibis)を対象に選んだ。大気・海洋モデルともに水平解像度1kmという高解像度のCReSS-NHOESを用いたことで、Tramiの巨大な眼や長時間にわたる強度維持、及びHagibisに伴って東日本の広範囲にもたらされた豪雨について、それぞれを定量的に再現された。また、各台風に対する温暖化の影響を調査するため、全球モデルによる気候変動予測実験から平均気温が4度上昇した21世紀末の地球を模した環境場を作成し、温暖化実験を実施した。このとき海洋表層の温度プロファイルを小刻みに変えた感度実験も合わせて実施した。 以上の実験結果より、温暖化が進行し海面水温が上昇するとともに台風の最大強度は増大する。一方で、より強くなった台風によって引き起こされる海面水温低下も大きくなることで、その後の台風の発達を抑制することが、Trami、Hagibisの両実験で明らかになった。海面水温低下量は海洋表層の温度プロファイルと台風の移動速度に大きく依存した。これまでの台風の気候変動予測研究では、顕著台風の再現が難しい水平解像度が粗いモデルや、海洋の応答を考慮しない大気モデルによる実験結果を用いている。本研究成果は、顕著台風の強度や台風による大雨を定量的に再現し、かつ台風に伴う海洋の応答も考慮している点で新しく意義深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題で掲げる具体的な目標は以下の3点の問題を解決することである。 1)中緯度実台風の強度及び雨量に対する温暖化の影響 2)温暖化がさらに進んだ気候下における中緯度台風の将来変化 3)上記2項目における大気海洋相互作用の影響 名古屋大学の新しいスーパーコンピュータFLOW typeIにおける各台風実験の最適な実験設定を決めるまで若干時間がかかったものの、実際に数値シミュレーションを開始したところ、想定以上の速度が出て、水平解像度を初期の予定の2kmから1km相当まで高解像度化することが可能になった。その結果、台風の最大強度だけでなく、台風の中心付近の内部構造や水平スケール等の再現性も向上し、Typhoon Trami (2018) の強大な眼や、Typhoon Hagibis (2019) の多重壁雲構造等、より現実的な結果を得ることができるようになった。また、Hagibis実験において、台風に先行して関東~東北に大雨をもたらしたレインバンドの強度や上陸のタイミングが的確にとらえられ、関東沿岸の600mmといった豪雨分布も定量的に再現された。温暖化に伴う将来予測研究をする上で、まずこのように目標とする現象(台風の強度や豪雨等)が的確に再現されることが極めて重要である。 この再現実験と温暖化実験の結果の比較から、「1)中緯度実台風の強度及び雨量に対する温暖化の影響」及び「2)温暖化がさらに進んだ気候下における中緯度台風の将来変化」について2つの台風を対象にまとめた。以上より、本研究課題は、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで中緯度顕著台風であるTyphoon TramiとTyphoon Hagibisを対象に、再現実験と平均気温が4度上昇した温暖化気候場においた温暖化実験を実施してきた。今後の研究では、これをさらに拡張する。まず、日本に大きな影響を及ぼした中緯度顕著台風事例として、Typhoon Faxai (2019)(令和元年房総半島台風)とTyphoon Haishen (2020)を対象に加える。また、各台風事例について再現実験と4度上昇温暖化実験に加えて「平均気温が2度上昇した温暖化気候場においた実験」を実施することで、昇温の度合いと台風の強度の変化幅の関係を明らかにする。さらに「温暖化の影響を除去した気候場においた実験」を実施し、現在の台風に対する温暖化の影響を評価する。4度昇温温暖化実験、2度昇温温暖化実験、温暖化の影響を除去した気候場に各台風おいた非温暖化実験の環境場は、それぞれ地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース、database for Policy Decision making for Future climate change (d4PDF)」の4度上昇実験、2度上昇実験、非温暖化実験から作成する。 以上の実験セットを4例の顕著台風すべてについて実施し、得られた結果を比較することで、現在の台風や将来の台風に対する温暖化の影響を定量的に明らかにする。さらに、各台風及び各環境場における感度実験毎に、異なるサイズや移動速度の台風に伴って引き起こされる海面水温低下量の差異に着目し、これらの温暖化の影響を受けた台風の特に強度変化に対して、大気海洋相互作用が果たす役割を解明する。
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