本申請課題の目的は、日本に接近・通過して災害をもたらす中緯度の台風に対する温暖化の影響及び温暖化がさらに進んだ気候系における中緯度台風の将来変化を、高解像度大気海洋結合領域モデルCReSS-NHOESを用いた数値シミュレーションによって明らかにすることである。 これまで中緯度顕著台風の代表例として対象としてきたTyphoon Trami及びTyphoon Hagibisに加えて、Typhoon Faxai (2019)(令和元年房総半島台風)とTyphoon Haishen (2020)の実験も行った。Trami、Hagibis、Haishenは水平サイズが大きく与える影響も大きいと考えられる多重壁雲台風である。さらに、4台風全てについて再現実験と平均気温が4度上昇した温暖化気候場においた温暖化実験に加えて、非温暖化及び平均気温が2度上昇した温暖化実験を実施した。 まず、中緯度台風の強度及び雨量に対する温暖化の影響としては、温暖化の進行とともに台風の最大強度や雨量は増加する。ただし、台風の強化に伴って海面水温低下量も増加した結果、温暖化の進行に伴う台風の強度や降水量の増加が大きく抑制される大気海洋相互作用による温暖化台風の緩和メカニズムを明らかにした。温暖化に伴う台風による海面水温低下の変化量は、台風が巨大かつ移動速度が小さいほど大きく、逆に小型かつ移動速度の大きい台風では小さくなった。この特徴は、温暖化の進行に対して感度が大きい台風と感度が小さい台風が存在することを示す。巨大かつ移動速度が小さい台風は、大気相互作用による中緯度台風の気候変動応答緩和の効果を大きく受けて気候変動に対する感度が小さくなる。一方、小型かつ移動速度の大きい台風は、大気相互作用による緩和効果が小さいため、温暖化の進行に敏感に反応し、より強く、より多量の雨をもたらす可能性があることが明らかになった。
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