研究領域 | 変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot |
研究課題/領域番号 |
20H05172
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
那須野 智江 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(環境変動予測研究センター), グループリーダー (20358766)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 台風活動 / 中緯度海面水温 / 季節内スケール / 全球非静力学モデル / アンサンブル数値実験 / 北西太平洋 |
研究実績の概要 |
本研究では、台風活動への影響について、熱帯・亜熱帯に比べ知見の薄い、中緯度の海洋変動に注目し、「季節内スケールの台風活動とその大規模場の変調との関係に対して、どの程度、どのような影響を及ぼしうるか」を明らかにすることを目的とする。このため、まず西太平洋における台風活動の活発だった2018年夏季を対象に、全球非静力学モデルを用いた数値実験の実施・解析を行い、大気大規模場と台風活動の海面水温に対する応答を調べた。北西太平洋中緯度の海面水温の高温偏差を除去した感度実験では、循環場の遠隔応答により、アジアモンスーンに伴う下層西風が標準実験に比べて弱化すると共に、海面水温偏差の東側で乾燥化・西側で湿潤化する傾向が見られ、これらの遠隔影響は、海面からの水蒸気フラックスの減少(海面水温偏差による直接影響)を上回った。数値実験における、台風の経路・強度分布の違いを調べた結果、上記の大規模場の変化に対応して西太平洋での全体的な台風活動の弱化と西部に特化した台風活動の増長が検出された。以上の結果は、台風活動(数か月スケール)について、これまで注目されてこなかった中緯度の海面水温変動が、大規模場の遠隔応答を介して系統的に影響し得ることを示唆する。ただし、その程度は熱帯・亜熱帯の海面水温偏差の影響ほど顕著でなく、検証・定量化のために数値実験を追加する必要がある。また、2020年は、北西太平洋において記録的な高温偏差が観測された。そこで、2020年の台風顕著事例を研究対象に追加し、予備的な数値実験を実施した。得られた知見を国内外の学会および領域の全体会合(9月・3月)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に従って、中緯度の海面水温が台風活動やその背景となる大規模場大気場に及ぼし得る影響を明らかにするために、全球非静力学モデルを用いた北西太平洋中緯度の海面水温偏差に関する感度実験の実施・解析を行った。まず、西太平洋における台風活動の活発だった2018年夏季を対象として、先行研究による一連の感度実験データを用いた解析を行った。その結果、北西太平洋中緯度の海面水温の高温偏差が、遠隔応答を通して、アジアモンスーンに伴う下層西風および、鉛直積算水蒸気量の増加に寄与していたこと、その影響は、海面からの水蒸気フラックスによる直接的な影響を上回ることが示唆された。また、台風活動については、擾乱運動エネルギーの解析では違いが目立たなかったが、台風の経路・強度を見ると、西太平洋での全体的な台風活動の弱化と西部に特化した台風活動の増長が検出された。熱帯・亜熱帯の海面水温偏差の影響との相対比較も行い、中緯度海面水温の影響は、前者に比べ弱いため、検証・定量化のために数値実験を追加する必要があるが(予備実験に着手)、系統的な影響を及ぼし得ることが分かった。得られた知見を国内外の学会および領域の全体会合(9月・3月)において発表した。新型コロナウィルス感染症の影響により、当初計画で予定していた、海外の研究協力者の招聘は実現しなかったが、国内外の学会および領域全体会議(オンライン)には研究協力者も参加し、海外の研究協力者とのオンライン打合せも行うことで補った。また、2020年は、北西太平洋において記録的な高温偏差が観測された。そこで、2020年の台風顕著事例を研究対象に追加し(当初計画で2年目の発展的計画)、予備的な数値実験を実施した。計画に従ってストレージ装置の導入を行うことで、全球非静力学モデルを用いた一連の予備実験および次年度の当初からの数値実験の実施が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
中緯度の海面水温が台風活動やその背景となる大規模場大気場に及ぼし得る影響について、前年度に得られた知見を検証し定量化するため、全球非静力学モデルを用いた追加実験の実施および計算結果の解析を行う。発展的計画として、2020年の台風事例については、前年度の予備実験の範囲では明瞭な結果が得られなかったので、対象期間の延長や海面水温偏差の拡張などを試行する。 年度内に、研究協力者と領域の計画研究参加者を交えて、研究の進捗と情報交換を行う場を設ける(開催方法については、現地集合が望ましいが、新型コロナウィルス感染症に係る状況を考慮のうえ判断する)。研究成果を投稿論文や国内外の学術集会において発表する。
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