本研究では、結晶欠陥特有の電子状態を機能に結び付けることを目的としている。シリコンの単原子層物質であるシリセンは、バックルしたハニカム構造を有し、その結果として線形なバンド分散を持つ二次元トポロジカル絶縁体となる。その新奇な特徴を活かしたデバイスが、期待される中、電界効果トランジスターが試作された。ところが欠陥によって移動度が低い値に留まるなどの問題が残っている。一方、シリセンの点欠陥や相境界といった欠陥が、磁性やバレー流の源となるなど、欠陥に特有の物理現象も注目されている。したがって、シリセンの欠陥を原子レベルで調べることが重要である。そこで本研究では、シリセンに人工的に欠陥を導入して、原子間力顕微鏡(AFM)と走査トンネル顕微鏡(STM)の複合装置により、その構造と電子状態を調べた。具体的には、シリセンの上に室温でシリコンなどの原子を蒸着すると、シリセンを構成するシリコン原子とは異なる結合角度を有する吸着原子が欠陥として導入されることがわかった。その際、欠陥が導入された箇所においてシリコンの座屈構造が変化することを発見した。座屈構造は電子状態に強く影響を与えるため、シリセンの性質をコントロールできることを示唆する結果である。
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