公募研究
SrTiO3上の単層FeSeは超伝導転移温度(Tc)が60-109Kであり、バルクFeSeのTc(8K)よりもはるかに高い。この高い転移温度の起源としてFeSe /STOの界面、特にSTO表面の重要性が示唆されているが、その微視的起源は不明である。研究代表者はこれまで、世界で初めて単層FeSeの超伝導特性がSTO表面調構造に依存し、さらに強相関超伝導体と同様な超伝導ドームの特徴があることを示した。本研究では、これまで行ってきた機能コアとしてのSTO/FeSeの界面、すなわちSTO表面に着目した単層FeSeの高温超伝導の研究を発展させ、より高いTcを持つ条件を探索する。2020年度は特にSTO表面として√13×√13周期を持つものに着目し、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて、原子解能STM測定を行い薄膜の形状や周期性に関する知見を得てさらに、走査トンネル分光(STS)で局所電子状態測定を行った。STM測定では√13×√13周期が明確に観測され、これまで同様、単層FeSeの電子状態がSTO表面の影響を受けていることが確認できた。さらに超伝導ギャップの大きさは12±2.5meVであり、以前明らかにしたドープ量と超伝導ギャップサイズの関係を示した超伝導ドームと矛盾しないことが分かった。興味深いことにFeSeは4回対称であるが、STSの微分コンダクタンスのマッピングのデータは2回対称のものが検出され、STO表面の原子構造に由来していることが示唆された。このようにこの系を通じて複雑怪奇なSTO表面の原子構造に関する情報も新たに分かった。さらにこれまで行ってきた超高真空下での電気抵抗測定を低抵抗基板上でも行うために測定回路の改良も行った。
2: おおむね順調に進展している
予定していたこれまでと別なSTO表面上の単層FeSeの超伝導特性に関して新たな知見が得られ、さらに懸案である、FeSe/STOにおける100Kという超伝導転移温度の再現に向けた準備がきちんと進んでいるのでこのように判断した。
本年度はこの系の超伝導が従来型かあるいは非従来型かを判断するために、磁場を印加して磁束量子を導入しSTS測定で電子状態がどのような変調を受けるかを検証する。特に磁束量子のエネルギーがBCS理論から予想されるCaroli-de-Gennes-Matricon準粒子と一致するかを検証することでクーパー対の対称性に関する知見を得たいと考えている。さらにこれまでのところ絶縁STO基板上の単層FeSeのゼロ抵抗測定による転移温度が40K程度であることが分かっているが、電気抵抗測定回路の改良を進め伝導性の高い基板上でも同様の測定を行うことで報告されている100Kという超伝導転移温度の真偽を判断し、この系における高い超伝導転移温度の起源のミクロスコピックな起源を解明したいと考えている。
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