研究実績の概要 |
BaSi2粒を用いた真空蒸着では蒸気組成の経時変化がわかっており,Baリッチな蒸気が蒸着初期に生成する.Baリッチな蒸気はBaリッチな薄膜を形成し,酸化しやすく,膜質の劣化につながる.このようなことから,1段階での蒸着には良質な薄膜を得るのに限界があった.そこで,今回は通常の1段階製膜に加え,蒸着初期時のBaリッチ蒸気を意図的に抑制する2段階製膜を行い,膜質のコントロールを試みた.作製した試料の膜質の評価をRaman散乱スペクトルやDeep-level transient spectroscopy(DLTS)により行った.最終的には結晶シリコンとのヘテロ接合型太陽電池を作製し,性能の比較を行った. n型結晶シリコン基板(111)上にプラズマCVD法によりBドープアモルファスシリコン薄膜を10nm堆積した.その試料を蒸着器にセットし,BaSi2の蒸着を基板温度600℃にて行った.1段階製膜では,シャッターを開放してから50秒間,電流値を140Aにキープして蒸着を行った.2段階製膜ではシャッター開放後,90Aで20秒間,140Aで40秒間電流が維持し,蒸着を行った.Raman散乱スペクトルの結果,どちらの試料もBaSi2由来のピークが確認でき,どちらの方法でもBaSi2薄膜が形成していることが確認できた.DLTS測定の結果,欠陥密度はどちらも1×10^13 cm-3程度であることがわかった.最終的にヘテロ接合型太陽電池構造を作製したところ,開放電圧が1段階製膜で319mV,2段階製膜で463mVとなり,2段階製膜を行うことで変換効率を大幅に向上させることに成功した.開放電圧向上の原因は界面付近の欠陥濃度の減少が考えられるが,差異を示す結果は得られていないため、さらなる測定が必要である.2段階製膜法がBaSi2薄膜を用いた太陽電池の変換効率向上に寄与する知見を得ることができた.
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