研究領域 | 機能コアの材料科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05195
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研究機関 | 一般財団法人ファインセラミックスセンター |
研究代表者 |
藤井 進 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 研究員 (90826033)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 界面 / 熱伝導 / 計算科学 / フォノン |
研究実績の概要 |
材料中の界面は、単結晶とは異なる原子構造ゆえに、フォノン熱伝導(原子振動により伝わる熱伝導)を大きく低下させる。近年、電子デバイスの小型化やナノ構造化技術の発展に伴い、原子スケールでの界面熱伝導機構を理解する重要性が高まっている。しかし、界面の原子構造やそれが熱伝導に及ぼす空間的影響と、個々のフォノンの界面挙動を関連づける研究例は乏しく、界面を積極活用した熱伝導制御指針は確立されていない。 本研究では、原子レベルの熱伝導性を評価可能な摂動分子動力学法と、フォノンの界面透過率を解析できるPhonon wave packet法を併用し、現象論とフォノン理論の両面から界面熱伝導機構を明らかにする。モデル材料には、電子デバイスや熱電変換材料として重要なSiに着目する。特に、多結晶体中に存在する粒と粒の同相界面(結晶粒界、あるいは粒界)及びSi粒の表面が酸化して形成される結晶Si/非晶質SiO2の異相界面の解析を行う。 一年目においては、本研究で用いる主要な計算手法の一つであるPhonon wave packet法の実装を行った。実装のテストにはSi粒界を用いた。また、この手法では一つの粒界構造に対して少なくとも数十の異なるフォノンを個別に界面に打ち込んで、その透過・反射・散乱の程度を系統的に解析する必要がある。したがって、計算の自動化が必要不可欠であり、その手順の確立も行った。また、フォノンが界面に打ち込まれた後の透過率及び散乱されたフォノンの分布を調べる解析用ソフトの開発も行った。 また、開発した手法により、複数種のSi粒界の熱伝導解析を実施した。解析にあたっては、フォノン散乱の過程を正確に模擬するため、近年開発された高精度機械学習ポテンシャルを使用した。その結果、フォノンの透過現象並びに粒界熱伝導度が粒界面の結晶方位や微視的な粒界原子構造に強く依存することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Phonon wave packet法の実装や解析プログラムの開発は当初の予定通り完了した。この手法を用いてSi/SiO2界面もしくはSi粒界の解析を実施予定だったが、本年度ではSi粒界の解析を優先的に実施した。このSi粒界の解析に、近年開発された高精度機械学習ポテンシャルを早い段階で適用できた点は、計画以上の進展と言える。機械学習ポテンシャルが従来使用されてきた古典的な原子間ポテンシャルよりも粒界構造や熱伝導性を良く予測できることを確認するため、両者の比較を入念に実施した。機械学習ポテンシャルの計算負荷が従来ポテンシャルよりも大きいことも相まって、解析が完了した粒界構造は4つと当初の予定よりは少ない。しかし、2年目以降に加速的かつ系統的に粒界熱伝導解析を行うために準備が整った面もある。 Si/SiO2界面については、複数のSiO2厚みの界面モデルの作成及び熱伝導計算が完了している。一方で、計算結果を解析するためのプログラム開発が途上であるため、界面で散乱されたフォノンの性質を調べるまでには至っていない。当初の予定では、1年目は開発したphonon wave packet法により、Si粒界かSi/SiO2界面のどちらかを解析する予定であったため、両者に着手できたことは計画以上の進展と言える。 以上のように、計画以上に進展した部分とやや遅れが見られる部分が混在しており、研究全体として見るとおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2年目では、開発したプログラムを用いてSi粒界及びSi/SiO2界面の熱伝導解析を本格的に実施し、ナノスケール界面での熱伝導機構を現象論とフォノン理論の両面から解明することを試みる。 Si粒界においては、数十種類の異なる構造を持つ粒界で系統的な計算を行い、粒界構造による熱伝導度の違い、そしてその起源の一つとなるフォノンの透過について解析を行う。しかしながら、特に機械学習ポテンシャルを用いた場合、phonon wave packet法や摂動分子動力学法の計算は負荷が非常に大きくなってしまう。系統的計算を実施するため、既存の計算設備に加えて、新規の多コア並列計算機の導入や、大学等研究機関のスーパーコンピュータの活用を行う。得られた結果を基に、熱伝導度の粒界構造依存性をフォノンの観点からの説明することを試みる。 Si/SiO2界面については、SiO2の厚みによってフォノンの透過率が変化する傾向が1年目の段階で解析できている。2年目では、透過したフォノンがどのような性質のフォノンに散乱されているか、逆格子空間でのモード分解により解析する。この解析プログラムの開発および活用が順調に進めば、非晶質SiO2の構造を変化させた場合や、SiOxの組成を変化させた場合についても追加解析を行い、異相界面における熱伝導機構解明を試みる。
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