研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
20H05197
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 靖哉 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80324797)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水圏 / 希土類 / 発光 |
研究実績の概要 |
水圏環境における生体環境計測のための検出分子として、水溶性の希土類錯体を用いた蛍光観察が現在注目されている。希土類錯体は従来の蛍光タグであるGFPや発光性生体分子の1000倍以上の発光寿命(数百マイクロ秒)を示すことから、時間分解蛍光観察が盛んに研究されている。本研究では水圏環境で希土類錯体の分子集合体を形成し、細胞吸着によってその形態や光機能が変化する新しい水圏分子材料の開発を行なった。 具体的には、水溶性の希土類錯体の開発および分子集合体形成行うため、水溶性ポリエーテルを2本および6本導入した新規なユウロピウム錯体を合成した。水溶性ポリエーテルを6本導入したユウロピウム錯体は水に溶解し、数マイクロメールサイズの集合体を形成することが明らかとなった。 また、水溶性の希土類九核クラスター(希土類イオン=テルビウム)の合成および集合体形成にも成功し、集合体形成時には発光量子効率および発光寿命が飛躍的に向上することも明らかとなった。これは分子集合体の形成によりテルビウムの励起状態からの無放射失活速度定数が偏勝したためと考えられる。さらに、テルビウムイオンとサマリウムイオンを混合した水溶性混合九核クラスターの合成にも成功し、テルビウムとサマリウムの両イオンからの発光バンドの観測に成功した。 さらに、水溶性ユウロピウム錯体を生理培養液に溶解してがん細胞存在下における発光測定を行うため、新しい光学測定装置の開発にも成功した。この測定装置を用いることで、リアルタイムに水溶性希土類錯体の発光寿命測定が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水溶性を希土類錯体に導入するため、希土類錯体の配位子であるホスフィンオキシドにポリエーテル鎖を導入し、その水溶性ホスフィンオキシドを取り付けた水溶性のユウロピウム錯体を合成した。得られた水溶性ユウロピウム錯体はその水圏環境にて集合体を形成することを確認することができた。また、ポリエーテル鎖の本数によって発光挙動が変化することも明らかになった。 さらに、ポリエーテル鎖の導入を導入した新しいテルビウム九核クラスターの合成にも成功し、水圏環境における集合体形成も明らかにした。このテルビウム九核クラスターは水圏環境で発光量子効率の向上が確認され、集合体形成による光機能の向上が確認できた。さらに、テルビウムイオンとサマリウムイオンが混合された水溶性九核クラスターの合成にも成功し、テルビウムイオンとサマリウムイオンの両方の発光バンドから発光が観測さっることもわかった。 また、水溶性ユウロピウム錯体の発光体をがん細胞存在下での生理培養液で観測するため、新しい分光システムの構築に成功した。このシステムを用いることでがん細胞に取り込まれた水溶性ユウロピウム錯体の発光挙動観察が可能になった。 以上のことから、本研究の基盤となる水溶性希土類錯体の合成および基礎的な光機能評価に成功し、さらにがん細胞診断応用に向けた新しい装置開発にも成功したため、「水圏環境における発光性希土類分子会合体の形成と光機能」はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
生理培養液はアミノ酸やグルコースおよび牛血清などが混合した水溶液であり、金属イオンを補足する分子が系中に多く存在する。このため、通常の希土類錯体は分解がおこると推測される。一方、ポリエーテル鎖を導入した水溶性ユウロピウム錯体は高濃度条件において分集合体を形成することが明らかとなったため、集合体形成濃度と分解挙動の相関を検討する必要がある。このため、ポリエーテル鎖を導入した水溶性ユウロピウム錯体の臨界ミセル濃度を計測し、ミセル形成濃度およびミセルが形成しない濃度におけるユウロピウムからの発光寿命を生理培養液環境にて評価する。さらに、がん細胞存在下での生理培養液中での水溶性ユウロピウム錯体の発光寿命計測を行い、がん細胞の活性と発光寿命との関係を明らかにする。 水溶性テルビウム・サマリウム混合九核クラスターの発光は水圏環境に大きく依存し、水圏の温度および酸素濃度によって発光スペクトルが大きく変化することが期待される。これはテルビウムイオンからサマリウムイオンへの励起状態でのエネルギー移動過程に起因することが推測されるため、水溶性テルビウム・サマリウム混合九核クラスターの水溶液中における発光の温度依存性および酸素濃度依存性を測定する。得られたデータをアレニウス解析することでエネルギー移動過程の詳細を明らかにする。また、同時に水溶液中における集合体形成挙動についても光散乱測定および臨界ミセル濃度測定によって評価する。さらに、水溶性テルビウム・サマリウム混合九核クラスターの生理培養液中での発光挙動の計測を行い、がん細胞存在化における発光挙動を明らかにする。
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