研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
20H05205
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原野 幸治 東京大学, 総括プロジェクト機構, 特任准教授 (70451515)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フラーレン / 水和 / バクテリオファージ / タンパク質 / ナノ粒子 / 三次元構造解析 / トモグラフィー / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
水和状態にある生体分子やナノ材料を精密に構造解析する技術の確立は分析化学における重要課題である.非晶質の氷に試料を包埋して低温で電子顕微鏡観察する手法は水和状態の試料をみる手法として広く用いられるが,試料作製の煩雑さや液体窒素温度での観察であるという点で問題がある.本研究において我々は,有機フラーレンのカリウム塩の溶液を水または緩衝液中に注入し徐々にプロトン化することによりフラーレン分子が自己集合し,ナノからマイクロメートルの直径を有する非晶質球状粒子が形成することを見いだした.種々の分析から,この非晶質粒子の中にはフラーレン1分子あたりおよそ3分子の水が含まれており,電子顕微鏡観察の真空条件に晒しても水が揮発せずに粒子内に残っていることが明らかとなった.さらに,無機ナノ粒子、タンパク質、およびバクテリオファージの溶液に対してフラーレンを注入して球状粒子を形成させることで,これらの材料を球状粒子内に包埋させることに成功した.このフラーレン球状粒子が幅広い温度領域で安定であること,さらに電子線照射に対して極めて高い耐性があることを利用し,観察対象試料を包埋した粒子をTEMグリッドの孔の周縁部に吊り下げることで,支持膜の背景ノイズの影響を受けずに傾斜像を取得することができ,電子線トモグラフィーによる水和状態の試料の三次元構造解析に応用できることを示した.新たな水圏機能材料として,ナノからマクロにわたる生体物質の構造解析への利用が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究はフラーレン分子超薄膜の開発とその電子,イオン伝導性の評価に関するものであるが,薄膜合成の目的で開発したフラーレン化合物の類縁体を用いて,真空中においても水を安定に含有する有機粒子という新しい水圏機能材料を発見し,生体分子の三次元構造解析に応用することができた.当初予定しなかった結果であるが,新たに課題を設定し直して成果をまとめることにより,論文発表を行うことができた.一方で,本来の研究目的であるフラーレン超薄膜の開発も進捗が得られており,全体として当初予定以上に研究が進んでいると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今回得られたフラーレンによる水和状態の安定化の知見を分子膜設計に反映し,当初目的であるフラーレン分子超薄膜の水圏機能開発を推進する.
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