研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
20H05207
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
南 豪 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70731834)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水ゲート型有機トランジスタ / アニオン認識 / ポリチオフェン / イソチオウロニウム / インバータ |
研究実績の概要 |
本研究では,水を構成部材とした水圏機能性有機デバイスの創製及び分子認識に基づくインバータ回路制御に挑戦する.有機デバイスは有機半導体材料の大気不安定性が起因して水系雰囲気下での使用においては極めて脆弱である.しかし,センシングデバイスとしての使用を考慮すると,その対象はおよそ60%以上の水を占める生体や海・河川に存在する生体関連物質や環境関連物質であり,水圏で機能する有機デバイスが求められる.そこで本申請では,逆転の発想として水を積極的に構成部材に使用する有機デバイス (水ゲート型有機トランジスタ,WG-OFET) を開発し,さらに分子認識能を賦与させることとした.その認識対象としては,生体および環境化学的に重要なオキソアニオン類を選択し,これらを捕捉可能なポリチオフェン誘導体(PT)を用いてWG-OFETを作製する.オキソアニオンの種類,濃度に付随したWG-OFET特性変化が確認された後,本WG-OFETを用いて電子回路における基本素子「インバータ」を構築する.そしてオキソアニオン認識にともなう電子回路のスイッチング特性変化を検証し,「分子」による電子回路制御の具現化に挑む. 具体的に,①イソチオウロニウム基を導入したポリチオフェン誘導体の合成とオキソアニオン認識能評価,②WG-OFETを用いたオキソアニオン認識能評価,③オキソアニオン認識によるインバータのスイッチング制御,④インバータの実用性の検討,を行う. 本申請の提案では「水をデバイスの構成部材」と捉え,半導体/水圏界面で機能する有機デバイスの構築を目指す.さらに,オキソアニオンの認識がインバータのスイッチングを制御することができれば,生体内における電気信号制御(例えばシグナル伝達)を人工的に再現したと捉えることができるため,学術的に大変意義深い知見を与えると確信する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,分子認識部位を賦与した水ゲート型有機トランジスタ (WG-OFET)のプラットフォームの確立と本デバイスを用いて水中でのアニオン認識に挑戦した.WG-OFETは,半導体と電解質の界面で生じる電気二重層の僅かな変化をトランジスタ特性変化として読み出すことが出来るため,極薄膜のキャパシタンスに起因した低電圧駆動に加え,分子認識部位を適切に導入することで高感度検出が可能なセンシングデバイスとして機能する.すなわち,高分子半導体側鎖に導入した分子認識部位で標的種を捕捉した場合,半導体界面の電気二重層に変化を与えるため,分子認識情報を鋭敏に捉えることが出来る.高感度な検出を目指し,分子認識部位を有するポリチオフェン誘導体を半導体として組み込んだWG-OFETを作製し,発がん性の疑いにより使用に規制がある除草剤グリホサートを標的種として,当該種の検出を試みた.本デバイスは超低電圧での駆動を達成し,さらに安定したデバイス駆動により,センサとしての良好な特性を示した.作製したWG-OFETはグリホサートの添加に伴い電流値が変化し,その検出限界値は水道水に存在する除草剤の許容濃度を大幅に下回った.従って,高分子半導体を導入したWG-OFETを用いて,高感度でのアニオン検出を達成した. 本取り組みと並行して,イソチオウロニウムを導入したポリチオフェン誘導体の合成も進めている.全体を通して,概ね順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中のイソチオウロニウムを賦与したポリチオフェン誘導体の合成が終わり次第,オキソアニオン類に対する認識能を評価する.その方法として,各種オキソアニオン類添加に伴う紫外・可視吸収スペクトル,蛍光スペクトル,FT-IRスペクトル測定における変化を計測し,光学的に溶液中の分子間相互作用を評価する.この知見を基に,水ゲート型有機トランジスタ (WG-OFET) においてオキソアニオンの認識が可能な高分子材料を選定し,デバイス作製へと展開する.続いて,有機半導体層及びオキソアニオン認識部位としてWG-OFETを作製し,水中における認識をWG-OFET特性変化として読み取り可能か検討する。閾値電圧はインバータの作製に極めて重要であるため,オキソアニオン認識の及ぼすVTH変化への影響を電気二重層キャパシタンスにより明らかにし,インバータ特性を発現可能なポリチオフェン誘導体及びオキソアニオンの化学構造について系統的に検討する.インバータ特性を示すポリチオフェン誘導体の選定後は,実際にインバータを作製し,アニオン認識に基づくスイッチング特性の制御に挑戦する.オキソアニオンの分子構造の差異は,EDLCひいてはインバータ特性に影響を与えることが予想されるため,種々のPT誘導体及びオキソアニオンを用いて,EDLCとインバータ特性の相関関係について分子レベルで明らかにする.最後に,当該インバータの実用性を検討するため,実サンプル環境 (体液や環境水) を想定した夾雑系での検出を試みる.具体的には,異なるオキソアニオン種を添加した際に得られるインバータ特性を教師データとして取得し,機械学習に用いることで,実サンプルに含まれる種や濃度の予測に挑戦する.
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備考 |
Nanoscale:inside front cover Nanoscale Emerging Investigators 2021
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