無機塩を含むリン酸緩衝液を溶媒として、示差走査熱量測定法による集合体の水和構造解析を実施した。その結果、無修飾セルロースからなる集合体が片末端アルキル化セルロースからなる集合体に比べて、より多くの中間水をもつことが分かり、前年度に実施した純水中の結果と同様の傾向となった。一方で、「セルロース系分子集合体による水圏バイオ機能材料の構築」を実施した。下記の三つの異なる水圏バイオ機能材料の創成を目指し、前年度の結果をもとに、それぞれに対応する集合体を設計・合成し、適用した。「バイオセンシング・診断材料」の構築では、モデルリガンドであるビオチンを集合体の表面に共有結合をもとに固定化し、抗ビオチン抗体の結合挙動について評価した。その結果、特異的な抗原-抗体反応をセンシングできることを見出した。この際、標的抗体以外のタンパク質の非特異的な吸着を抑えることができたため、高いシグナルノイズ比で標的抗体をセンシングできた。「薬物輸送材料」の構築では、モデル医薬として疎水性の蛍光分子を選択し、集合体への担持について検討した。その結果、疎水性効果の利用により蛍光分子を安定に担持できることを見出した。また、集合体を分解することにより、蛍光分子を放出できる可能性も見出した。「細胞培養添加剤」の構築では、集合体の水分散液中における細胞培養について検討した。その結果、それら水分散液が細胞を効率よく浮遊培養するための環境として機能することを見出した。この際、接着性細胞(HeLa細胞、L929繊維芽細胞など)を適用すると、培養後にはサイズが比較的揃った細胞集合体を得ることができた。このように、セルロース系分子集合体による水圏バイオ機能材料の創成のための基盤を構築するとともに、領域の深化・拡大に貢献した。
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