今年度は、前年度に開発した吸湿基および光応答基をもつビニルポリマーの光配向を実施した。当該ポリマーのスピンコート膜において、この薄膜はラメラ状ミクロ相分離構造を形成した。この薄膜に直線偏光を照射したところ、ミクロ相分離構造が直線偏光に対して垂直方向に配向した。このラメラ状ミクロ相分離構造は吸湿性ブロックと非吸湿性ブロックの繰り返し構造から形成されており、光配向させた吸湿性ミクロ相分離構造は加湿によって相分離周期が44nmから53nmに膨潤した。これは、吸湿性ブロックへの選択的な吸水を示唆する結果である。吸湿性ミクロ相分離構造をフォトマスクを介して光配向させることで、ナノ周期構造の光パターニング、すなわち水圏ナノ周期構造の自在な配列制御が期待できる。 前年度において研究を進める中で、吸湿性を付与した直鎖状ポリシロキサンの異常力学物性を明らかとした。2021年度もこの直鎖状ポリシロキサンについて引き続き力学物性を評価した。直鎖状ポリシロキサンは室温では柔軟な材料として有名であり、当該ポリシロキサンも吸湿時には卵黄程度の貯蔵弾性率であった。しかし、乾燥時には汎用ビニルレジンに匹敵する貯蔵弾性率を示し、吸湿量によって1億倍以上も弾性率が変化した。また、吸湿させた状態で当該ポリシロキサンをガラス板で挟み込み乾燥させると、約1.5MPaの引張せん断接着強さを示した。この値はΦ6mmの接着面積で約6kgの重りを吊るしてもガラス板が接着することを意味しており、柔軟材料の代名詞である直鎖状ポリシロキサンの固定観念を覆す特性を見いだすに至った。さらに、当該ポリシロキサンを加湿させると自己集合してナノメートル周期のラメラ構造が形成される、加湿誘起自己集合現象も見いだし、ジメチルシロキサンユニットとの共重合によりその秩序が増すことまでを明らかとした。
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