タンパク質の表面や内部には位置および向きが固定された水分子が多数みられるが、このような水分子はタンパク質の機能や性質にとって非常に重要であることが知られている。これらの水分子はタンパク質のアミノ酸残基との間で水素結合を形成しており、バルク中のような正四面体構造をとっているわけではない。本研究では、精密な構造決定が可能な超高分解能X線解析によりタンパク質内部結合水の構造および周辺アミノ酸残基との相互作用を詳細に解析し、水分子を人為的に制御する方法について検討した。2021年度は、緑色蛍光タンパク質(GFP)の各種変異体およびバクテリオロドプシンの結晶を作製し、放射光施設にてそれぞれのX線回折データを収集して昨年度よりも分解能および精度を向上させることができた。測定した回折データについては順次精密化計算を実施し、異方性温度因子を考慮することでより精密な構造パラメータを決定することができた。とくに、GFPのT203I変異体については0.83 Å分解能を達成して多極子原子モデルを使用した電荷密度解析をおこなうことができた。この結果、A型発色団を持つGFPとして初めて電荷密度情報を実験的に得ることに成功した。これらの実験的精密構造モデルを使用して量子化学計算をおこない、水分子の配向を再現するとともに相互作用エネルギーとその内訳の計算をおこなうことができた。また、これらの知見から機能発現における水分子の役割について考察することができた。さらには、タンパク質に結合している多数の水分子の配向について統計を取ることでタンパク質と水分子の水素結合の特徴を明らかにすることができた。
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