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2020 年度 実績報告書

凍らない水において多数の水分子が協奏して引き起こされる水素結合ダイナミクス

公募研究

研究領域水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成
研究課題/領域番号 20H05221
研究機関大阪大学

研究代表者

金 鋼  大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20442527)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2022-03-31
キーワード過冷却水 / 高分子 / 水素結合 / 水和構造 / 分子シミュレーション
研究実績の概要

「凍らない水」における水素結合ダイナミクスを正しく評価する技術は水圏機能材料の開発において重要
要素である。しかしながら、過冷却水における液液転移を含めた水の異常性の起源そのものが基礎科学として未解決問題とされている。そこで分子動力学シミュレーションが主要な役割を果たし、多数の水分子が関与する水素結合ダイナミクスの解析に多くの注目が集まっている。本研究では、マルコフ状態モデルを利用して水素結合切り替え運動の遷移経路解析を行った。従来、マルコフ状態モデルは主に生体分子の構造変化ダイナミクスを評価するために利用される手法であるが、凝縮系の協同的運動に対して適用する研究はほとんどされなかった。本研究では、これを過冷却水へ適用し、3分子間の水素結合切り替え運動の温度依存性を評価した。状態間遷移行列を定量化し、マルコフ近似が成り立つ時間スケールにおいいて遷移経路分解をおこなった。切り替えの初通過時間は、水素結合1本の平均寿命と同様の温度依存性を示しており、本マルコフ状態モデルの妥当性が検証された。さらに水素結合切り替え運動の遷移経路の選択率を求めた。常温では二股水素結合状態を遷移状態として、水素結合アクセプター分子を切り替える運動が主要である。一方で、温度を低下させると、アクセプター分子が水素結合4本を持つ遷移経路の選択率は上昇し、それ以外の選択率は減少することがわかった。このことは過冷却状態では4面体ネットワークに沿ったアクセプター切り替えが際立つことを示唆するものである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

成果として得た過冷却水における水素結合切り替え運動に対してマルコフ状態モデルを適用した研究は新規なものである。特に、切り替えの遷移経路を分子論的に明らかにする解析枠組を提示しており、これを一般の水圏機能材料における水素結合ダイナミクスへ展開することができる。

今後の研究の推進方策

過冷却水をプロトタイプとしその水素結合切り替えの遷移経路を抽出する研究を、一般の水圏機能材料へ展開する。特に、高分子-水混合系では、水分子は高分子近傍で官能基と強く相互作用することにより、純水とは異なる動的挙動を示す。そこではガラス化と結晶化が競合しており、そこで水素結合ダイナミクスを正しく評価することは必要不可欠である。高分子官能基と吸着と乖離を繰り返す水の運動性を明らかにし、複数の分子が関与する協働的運動と巨視的な物性との関係を得ることを目指す。

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Learning reaction coordinates via cross-entropy minimization: Application to alanine dipeptide2020

    • 著者名/発表者名
      Mori Yusuke、Okazaki Kei-ichi、Mori Toshifumi、Kim Kang、Matubayasi Nobuyuki
    • 雑誌名

      The Journal of Chemical Physics

      巻: 153 ページ: 054115~054115

    • DOI

      10.1063/5.0009066

    • 査読あり
  • [学会発表] 水素結合ネットワークに基づくケージ・ジャンプモデルの開発とその過冷却水における拡散ダイナミクスへの応用2021

    • 著者名/発表者名
      菊辻卓真, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      化学工学会第86年会
  • [学会発表] ケージ・ジャンプでモデル化される拡散係数と構造緩和時間2021

    • 著者名/発表者名
      菊辻卓真, 金鋼, Francesco Rusiano, Raffaele Pastore, Francesco Greco, 松林 伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会
  • [学会発表] 5CB液晶のネマチック相転移の分子動力学解析におけるレプリカ交換法の適用2021

    • 著者名/発表者名
      竹本健吾, 石井良樹, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会
  • [学会発表] 環状高分子ガラスの振動状態密度解析2021

    • 著者名/発表者名
      後藤頌太, 水野英如, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会
  • [学会発表] ガラス形成液体のフラジリティとボゾンピークによるスケーリング性の検討2021

    • 著者名/発表者名
      大門翔太, 水野英如, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会
  • [学会発表] 過冷却水中での水素結合破断に伴う多体構造変化:マルコフプロセスで記述する遷移ネットワーク2020

    • 著者名/発表者名
      菊辻卓真, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第34回分子シミュレーション討論会
  • [学会発表] ガラス形成液体のフラジリティとボゾンピークによるスケーリング性の検討2020

    • 著者名/発表者名
      大門翔太, 水野英如, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第34回分子シミュレーション討論会
  • [学会発表] 5CB 液晶のネマチック相転移における秩序化の分子動力学解析2020

    • 著者名/発表者名
      竹本健吾, 石井良樹, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第34回分子シミュレーション討論会
  • [学会発表] 環状高分子メルトの振動状態およびダイナミクスの粗視化分子動力学シミュレーションによる解析2020

    • 著者名/発表者名
      後藤頌太, 水野英如, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第34回分子シミュレーション討論会
  • [学会発表] 直鎖状高分子と環状高分子のガラス状態における振動状態密度解析2020

    • 著者名/発表者名
      後藤頌太, 水野英如, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      2020年度高分子基礎物性研究会・高分子計算機科学研究会・高分子ナノテクノロジー研究会 合同討論会
  • [学会発表] 水圏において多数の水分子が協奏して引き起こされる水素結合ダイナミクス2020

    • 著者名/発表者名
      金鋼
    • 学会等名
      第10回CSJ化学フェスタ2020
    • 招待講演
  • [学会発表] 過冷却水中での水素結合破断に伴う多体構造変化:マルコフプロセスで記述する遷移ネットワーク2020

    • 著者名/発表者名
      菊辻卓真, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会2020年秋季大会
  • [学会発表] 5CB液晶のネマチック相転移における秩序化の分子動力学解析2020

    • 著者名/発表者名
      竹本健吾, 石井良樹, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会2020年秋季大会
  • [学会発表] 粗視化分子動力学シミュレーションを用いた環状および直鎖高分子メルトにおけるラウスモード解析2020

    • 著者名/発表者名
      後藤頌太, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会2020年秋季大会
  • [学会発表] ガラス形成液体のフラジリティとスケーリング関係の考察2020

    • 著者名/発表者名
      大門翔太, 水野英如, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会2020年秋季大会

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公開日: 2021-12-27  

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