研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
20H05223
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
網代 広治 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (50437331)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ワンポット / 高強度 / ハイドロゲル / 保水剤 / Nービニルアミド |
研究実績の概要 |
IPNの調製において、一段階目の網目を架橋剤(A-A)とモノマー(A)とを用いて構築後、二段階目の架橋剤(B-B)とモノマー(B)を拡散浸透させた後、反応させる必要があった(2ステップ法)。本計画では両モノマー(AとB)と反応する部位を有する特殊な架橋剤(A-B)を用いる(ワンポッド調製)。ここで特殊な架橋剤(A-B)は、二つの網目を結合できるため、ゲルは高強度化すると考えられる。予備的知見があるが、詳細な機構は全く明らかとなっておらず、実用材料への応用には至っていない。そこで本研究課題では、【1】ワンポッド調製法の確立、【2】保水・栄養物担持制御、【3】実用地への検討、の3項目について計画した。このうち2020年度は、【1】ワンポッド調製法の確立に専念して実験を実施したところ、二種類の異なるラジカル重合反応性部位を導入した特殊な架橋剤(A-B)がハイドロゲルの強度に影響を与えることがある程度わかってきた。 また、特殊な架橋剤(A-B)の効果を調べるために、架橋剤(A-A)、架橋剤(B-B)とともに、これらの架橋剤の有無を変化させて、種々のハイドロゲルを得た。これらのハイドロゲルの力学強度についてレオメーターおよび破断試験機を用いて力学強度を測定すると、特殊な架橋剤(A-B)が存在すると、透明性が高く、また膨潤度も高い値を保ったまま、比較的高い強度を示すことが分かった。 さらに、相互侵入網目の組み合わせとして、側鎖のアルキル鎖長を変化させた種々のアクリレートモノマーを用いて様々なハイドロゲルを得た。これらは表面の水滴接触角や接着性が異なるなど、ハイドロゲルの特性に効果を示すことが分かった。 このほかにも、新学術領域の研究者と議論することでN-ビニルアミドを用いた新しい高分子材料や、新しい架橋構造の提案がなされ、共同研究を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初ではほとんど分からなかった特殊な架橋剤(A-B)の効果について、ある程度分かってきた。 特にメカニズム考察の際に、架橋剤の比較として、特殊架橋剤(A-B)の有無や、架橋剤(A-A)および架橋剤(B-B)の有無がハイドロゲルの力学強度に及ぼす効果を明らかにした。また、相互侵入網目に用いるアクリレート系モノマーを用いることで、得られるハイドロゲルの特性を制御することができた。 また、新学術領域の研究者との議論を通じて、複数の共同研究を開始している。これは本研究課題の特徴となっている「特殊な架橋構造」および「N-ビニルアミド」にそれぞれ関連するものであり、本新学術領域「水圏機能材料」に参画することで初めて提案できた内容といえる。 以上の理由から、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究実施計画は、昨年度の成果を踏まえて【2】保水・栄養物担持制御、【3】実用地への検討を実施する。なお、昨年度の研究成果から明らかとなった特殊な架橋剤のメカニズムについて(【1】)、リニアポリマーを利用した反応物の解析によって重合機構をより詳しく調べる。さらに、新学術の領域会議において発案された共同研究を進める。 まず【1】ワンポット調整法の確立について、架橋剤を用いた低濃度におけるリニアポリマーを合成し、これをNMRなどで解析することで、2種類のビニル基の反応性の違いについてより詳細に調べる。反応時には溶媒効果などについても調べる。 また、【2】について「化学構造・網目構造」と「保水能・化合物担持能」との関係を明確とする。ゲルの表面構造や網目構造を観察し、種々の低分子化合物の担持能および放出挙動を調べる。また、「膨潤度・力学的強度」と「過酷な環境に対する耐性」との関係を明確とする。ゲルの調製条件と膨潤度および引張強度・圧縮強度を調べる。【3】について、得られたゲル保水材としての性能を調べる。プランター中の砂に埋め込み、定期的に外力をかけたり、ビルの屋上で設置したり、水槽に浮かべて常に揺らしたりする。 共同研究としては、ネットワーク材料の高強度化という観点から、ロタキサン構造を導入した新しい高分子材料を創成する。また、Nビニルアミドがポリカチオンの前駆体であることを利用して、新しいpH応答性ゲルを作製する。
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