我々はこれまでに,レゾルシンアレーン・発光性金属錯体・水分子を組み合わせた分子集合体に関する研究を開拓してきた。令和2年度の研究で,水分子を溶媒として用いることで結晶性化合物を得られることを見出し,単結晶X線構造解析によって溶液中とは異なる集合構造を持つことを明らかにした。令和3年度では,得られた結晶性化合物の性質解明と結晶中に含まれる水の構造・性質解明を目指した。 得られた単結晶は溶媒で満たされた1次元細孔を有しており,単結晶を水に浸漬させると、結晶性を損なうことなく細孔内部の溶媒分子を全て水分子に置換することができた。溶媒置換後に単結晶X線構造解析を行ったところ,細孔に取り込まれた水分子の位置を確認でき,水分子は細孔界面近傍で5量体をメインとした水クラスター構造を形成していることを確認した。一方,細孔中央部の水分子はディスオーダーのため観測することはできなかった。すなわち細孔界面からの距離に応じて,水分子の運動性に大きな差があることが明らかにできた。 細孔内部に位置する水分子の赤外吸収スペクトルを測定するため,大型放射光施設SPring-8 BL43IRで測定を行なった。その結果,中間水・不凍水のような材料界面に存在する水分子と類似の波数領域にピークが観測された。これは,細孔内部は材料壁面に囲まれているため中間水・不凍水が多く含まれる,という予想と矛盾しない結果である。 本研究によって,これまででは困難であった材料界面近傍の水分子の構造解析に対して,原子レベルの分解能を持つ非常に強力な分析ツールを提供できた。引き続き,領域内外で共同研究を進め,この細孔性結晶と内部に含まれる水分子の構造と性質についての学術論文の採択を目指し,研究を進めていく予定である。
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