研究実績の概要 |
水の利用による分子会合体の研究は環境・エネルギーから治療・生体の各分野まで様々な領域を網羅する。他の溶媒と異なり、水は反応場形成のための媒体やその運び手、エネルギー変換における電子やプロトン源など複数の役割を同時に担える特異な溶媒と言える。光励起状態が関与する化学反応はエネルギー変換や光線力学療法など多数の報告例があるが、その材料開発は水への溶解性等の問題で未だ発展途上にある。以上の問題点を念頭に、本研究では水中での凝集状態の活用で水と光エネルギーが共生可能な材料開発を推進する。 ペンタセン はベンゼン環が五つ直線状に縮環した平面構造を持つ化合物であり、可視領域に幅広い吸収能と高いキャリア移動度を持つ代表的な有機半導体材料である。近年では、近接二分子間にて一光子の吸収過程から相関のある三重項対 (TT) を経て二つの独立した三重項励起子 (T1 + T1) を生成する多励起子生成反応の一重項分裂が数多く報告されている。一般に、ペンタセンのSFは固体もしくは有機溶媒中での報告に限られている。そこで本研究では水中でのSF発現を目的としてペンタセンの6, 13位にエチレングリコール (EG) 鎖を有するエチニルベンゼンユニットを連結した一連の誘導体 [(EG)n-Pc-(EG)n: n = 2, 3, 4] を合成し、構造及び光物性評価を行った。まず、(EG)n-Pc-(EG)nはn=2では固体であるが、n=3,4では液状であることが分かった。今年度はこの液状構造に着目し、粉末X線解析を行ったところ、会合形成に関与するピークが関与され液状構造ながら緩いペンタセン骨格の相互作用が確認された。また、フェムト秒過渡吸収測定では(EG)3-Pc-(EG)3および(EG)4-Pc-(EG)4において一重項分裂の進行が確認された。水中での分子集合体挙動についても現在分光測定を中心に検討中である。
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