研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
20H05235
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
森田 成昭 大阪電気通信大学, 工学部, 教授 (20388739)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バイオマテリアル / 水和構造 / 赤外分光 / ケモメトリックス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,血流程度の流れと接したバイオマテリアルの水和構造を官能基レベルで理解することである.そのために,in situ ATR-IR法を改良して,流れと接したバイオマテリアルの赤外スペクトルを偏光測定できるようにした.本研究において,抗血栓性に優れたバイオマテリアルであるpoly(2-methoxyethyl acrylate) (PMEA) を試料として用い,水の流れと接した状態でATR-IRスペクトル測定を実施した.含水したPMEAは,過去の研究で,不凍水,中間水,自由水の3種類の水和水が存在し,そのうち,中間水がタンパク質吸着や細胞接着を抑制していると考えられている.また,PMEAと接触した水に塩化ナトリウムを添加すると,PMEAの水和水は自由水から脱水和し,不凍水や中間水は生理食塩水濃度程度では脱水和しにくいことがわかっている.本研究において,予備実験的にPMEAと接触した水に流れを与えながらATR-IRスペクトルを測定したところ,水の信号強度が減少し,水のO-H伸縮振動に帰属されるバンドの形状が複雑に変化することが観察された.このことは,PMEAの水和水が,流れの影響を受けて脱水和を起こし,水和構造を変化させていることを示唆する.また,偏光子を用いてATR-IRスペクトル測定を行ったところ,流れの影響を受けて僅かにPMEA鎖が分子配向すると考えられるスペクトル変化が初めて観察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in situ ATR-IRフローセルを改良して,入射光の光軸と反射光の光軸がつくる面に対し,反射面に準備した試料の表面を面内方向に流体が流れるように流路を設計した面内流れセルと,面外垂直方向に流体が流れるように流路を設計した面外流れセルの2種類のフローセルを準備した.実験において赤外偏光子を用い,反射光の電場をp偏光,あるいはs偏光とすることで,流れ2種類と偏光2種類の組み合わせによる4種類のスペクトルを測定した.このとき,p偏光において測定したpスペクトルとs偏光において測定したsスペクトルを用い,それぞれの反射吸光度で2s - pをとった2s - pスペクトルをプロットしたところ,水の流れと接触したPMEAにおいて,面内流れと面外流れでスペクトル形状に僅かではあるが有意な違いが再現よくあらわれることが確認された.このことは,材料表面で水の流れに沿った方向とそれに垂直な方向で,僅かにPMEAの分子配向が異なることを示唆している.
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今後の研究の推進方策 |
水の流れと接したPMEAが示したスペクトル変化が,どのような分子配向に起因するのかを明らかにし,流体の種類,流速,高分子試料,等を変えてその特性を見極める.また,条件を変えて測定したスペクトルをデータ解析することで,より詳細な水和構造変化を捉えたい.
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