半減期が実験で測定されている2つのニュートリノを放出する二重ベータ崩壊過程における、原子核の遷移のしやすさを示す原子核行列要素を原子核密度汎関数理論に基づいて計算することで、原子核内の有効相互作用の一つであるアイソスカラー型中性子-陽子対相関の結合定数の不定性を減らし、ニュートリノレス二重ベータ崩壊の原子核行列要素の値の精度を高めることが本研究課題の目的である。 2020年度から引き続き米国ノースカロライナ大学で開発された中性子-陽子チャネルの有限振幅法を用い、2つのニュートリノを放出する二重ベータ崩壊の原子核行列要素計算を二重複素積分によって行った。先行研究で行列対角化の手法によって計算された4つの核の原子核行列要素のアイソスカラー型対相関結合定数依存性を有限振幅法によって計算し、先行研究と比較した。続いて、ベータ崩壊やガモフ・テラー巨大共鳴、スピン双極子巨大共鳴の実験データを大域的に再現するように最適化された原子核密度汎関数を用いて、原子核行列要素の実験値が既知の11の同位体の原子核行列要素計算を行い、実験値とのよい一致を得た。この計算で用いた原子核密度汎関数は二重ベータ崩壊の半減期の情報を用いずに決定されているため、崩壊が未測定の原子核の行列要素計算が可能である。二重ベータ崩壊が可能であるが、まだ半減期が測定されていない27の同位体についても計算を行い、原子核行列要素値の予言を行った。 今回用いた手法は二重電子捕獲の原子核行列要素計算にも応用可能であるほか、ニュートリノレス二重ベータ崩壊の原子核行列要素計算にも応用が期待できる。
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