研究領域 | 地下から解き明かす宇宙の歴史と物質の進化 |
研究課題/領域番号 |
20H05243
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂口 綾 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00526254)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ICP-MS / 極微量放射性核種 / 硫酸ガドリニウム / 化学分離 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ラジウム(Ra)やアクチニウム(Ac)、プロトアクチニウム(Pa)といったα線放出核種を高感度かつ迅速に分析する手法を開発することである。そして、この技術をSuper-Kamiokande Gadolinium(SK-Gd)実験やXENON-nT実験など、極低バックグラウンド条件を要求する「地下宇宙」実験に応用する。R2年度はどこにでもある誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)により誰でも簡便に極微量の高質量数放射性長寿命同位体を測定できる事を目指した実験を行ってきた。そのため、まずはICP-MSの高感度化を行った。具体的には低予算で高感度化可能な導入系(チューニング方法、スキマーコーンのオリフィス径変更、スキマーコーンとレンズの形状変更)について検討を重ねてきた。それにより、これまでの定量下限の1/3の定量下限を達成することができた。また高マトリクス(硫酸ガドリニウム八水和物)中に含まれる極微量のPa分離のために、短寿命のPa-233をNp-237からミルキングしてトレーサーとして用い、TK400レジンによる吸着・回収実験を行うことで最適化し、高感度化したICP-MSによりSK-Gdでの要求値である30 mBq/kgのPa測定を可能とした。結果等に関しては、2回の研究会で口頭発表した。また、新学術全体において低BG放射線測定を必要とするため、高感度化の方法についてチュートリアル講演でいち早く情報を詳細に共有した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神岡にインストールされているICP-MSでの測定を視野に、誰でも高感度で極微量の長寿命放射性核種測定ができるように以下の事を中心に行った。(1)チューニング溶液および条件の改善、(2) 低マトリクス仕様のレンズ系の導入、(3) スキマーコーンのオリフィス径の変更。このように、ICP-MSの導入系の変更により特に質量数230周辺の同位体における感度を向上させた。これによりこれまでのICP-MSの検出下限の1/3の濃度まで測定可能とした。また、化学分離するために硫酸ガドリニウムをできるだけ大量に溶液化する必要があったため、酸の濃度や条件(温度)を変え、最適な条件を確認した。特にR2年度はプロトアクチニウム(Pa)に着目しTK400レジンへ導入する際の酸濃度、通液速度、脱離方法を検討し、最適な条件を見つけた。最終的には98.1±3.6 %のPaが回収できる方法を確立した。プロジェクト全体としては、順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
予定しているRa-226も主としてICP-MSでの測定を試みる。Pa測定時以上の感度を向上させる必要があり、溶液試料の脱溶媒化により水分の低いエアロゾルとすることでプラズマへの導入効率向上と効率よいイオン化を目指す。また、窒素等の補助ガスを入れてプラズマ温度を上げることで、さらなる高イオン化効率化を目指す。さらに、この試料を効率よくプラズマ中心に導入するためにトーチインジェクター径を小さくする。このように、アルゴンプラズマで効率よくイオン化された目的核種を、高真空の質量分析部に導入する“差動排気室”をさらに高真空度化することで、質量分析部にイオンを効率よく取り込める可能性がある。高真空化のために、ターボ分子ポンプの前段にあるロータリーポンプを並列につなぎ、現在の半分以下の圧力にすることを目指す。差動排気室の高真空度化後、R2年度に試みたスキマーコーンのオリフィス径をさらに大きくし、分析部への効率良いイオン取り込みを試みる。高真空化およびスキマーコーンオリフィス径変更にともなうスキマーコーンによるイオン取り込み位置の最適化も行う。これらの実験のため、市販されていないパーツについては全て特注で作成する。またそれぞれの条件での測定最適値を見つけるためのチューニングも併せておこなう。
|