2021年度は、まず前年度の課題であったUFL帯用磁気センサーの信号雑音比改善に取り組んだ。落雷検知器に対してコイルを用いた磁気感度の伝達関数キャリブレーションを行い、これまでに取得していた落雷信号を電圧値から磁場に焼き直すことで、要求される磁気感度を評価した。その結果、従来使用していた磁気インピーダンス素子では大部分の落雷イベントがセンサーノイズで制限されてしまうことが分かったため、ULF帯用センサーをフラックスゲート式磁気センサーに変更した。このセンサーはカタログスペックとして3kHz以下が観測可能帯域となっているが、落雷検知器と同様にキャリブレーションを行うことで20kHzまで観測可能となった。さらに地磁気によるDC成分をカットするフィルターを導入することでダイナミックレンジを稼ぎ、信号雑音比をさらに向上させた。 この改善されたセットアップを用いて、2021年の夏季には標定位置データとマッチした約800イベントの落雷事象を観測した。それらの平均スペクトルを地上と地下で比較することで地中電気伝導度推定を試みたが、この手法では整合性のある結果が得られなかったため、イベントごとに伝導度推定を行う解析手法の開発を進めている。 2021年末から2022年始の冬季にも同様の観測を行った。夏季と比べて落雷発生数が少なく、また途中でデータロガーのSDカードが破損するといったトラブルもあり、取得された落雷イベント数は10程度となったが、スペクトル形状が夏季雷と異なりVLF成分が少ないといった傾向が確認された。このデータは、来年度以降の観測におけるトリガー条件の改善に役立つと期待できる。 また2021年度には、研究会やセミナーを通じて複数の落雷・雷雲の専門家との繋がりを形成することができたことが大きな成果として挙げられる。
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