本研究では、目的となる結晶・準結晶構造が与えられたときに、その構造を再現する数理モデルを推定する逆問題の理論手法を確立することである。 本年度では三次元準結晶構造に注目して研究を行った。高分子のブロック共重合体のミクロ相分離で観測されてきたいdouble gyroid構造と、Frnak-Kasper A15構造を再現するPFCモデルの推定に成功した。Frank-Kasper構造は、ここ数年高分子のブロック共重合体で実験的に観測され始めているが、その形成メカニズムが不明であった。これらの構造は、結晶の対称性は知られているので、等高面として平面波の重ね合わせで構造を解析的に再構成することができる。この再構成した構造は、必ずしもPFCモデルの定常解にはなっていないが、我々の手法を用いるとこのような構造でも推定することが可能である。Frank-Kasper A15構造は、十二回回転対称性を持つ三次元準結晶の近似結晶であることが知られている。そこで、推定したPFCモデルとパラメーターを用いて、より大きなシステムサイズ、また長時間の計算を行い、三次元の準結晶が得られることを明らかにした。この構造を生成するためには、急冷では準安定構造で固まってしまい、PFCモデルにノイズを加えてアニーリングすることによって核形成過程を経て作る必要があることが分かった。我々が知る限り、十二回回転対称性を持つ三次元準結晶を連続場のモデルで再現したのは本研究が初めてである。本研究は改訂を重ねて論文投稿中である。 また、粒子モデルを用いて目的となる構造を再現する相互作用ポテンシャルの推定の枠組みの構築も行った。異方的なパッチ粒子を用いて、どのような回転対称性の異方性が相互作用ポテンシャルとして必要かどうかの推定を行った。本研究はJournal of Chemical Physicsに掲載済みである。
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