周期系において電子バンドのトポロジーを磁気秩序によって制御しようという試みが進んでいる。本研究では近似結晶を舞台に電子物性を再検証し、近似結晶の電子物性と磁性の関係性を電子バンドのトポロジーの観点から整理することを目標としている。これまで近似結晶の磁気構造及び電子物性はあまり調べられていないため、研究初年度はまず磁気構造及び電子物性の開拓に注力した。 まずは、粉末中性子回折実験を行いAu-Ga-Tb 1/1型近似結晶の磁気構造を明らかにした。興味深いことに、Au-Ga-Tb 1/1型近似結晶はAu-Al-Tb 1/1型近似結晶と同様に磁気モーメントが[111]軸周りに渦巻き状にねじれた磁気構造を示した。このことはTbの磁気異方性がAl原子をGa原子で置換したり非磁性金属元素の組成がずれたりしてもほとんど影響を受けないことを示唆している。 また、非共線的磁気構造を示すと期待されるAu-Al-Tb 1/1近似結晶の単結晶試料を用いた精密磁化測定、電気抵抗測定、ホール抵抗の測定を進めた。磁化測定から今回測定したAu-Al-Tb 1/1近似結晶では強磁性的な相互作用が増強されていることが示唆された。加えて、常磁性状態及び磁気秩序状態において磁化に比例したホール抵抗を観測した。磁気秩序状態における磁化及びホール抵抗の磁場依存性を検証したところ、磁化が飽和する磁場領域近傍で単純に磁化に比例しないホール抵抗の成分がわずかにあることを見出した。この起源を明らかにすることが今後の課題である。
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