準結晶・近似結晶における物質開発は希土類元素を含んだ系でもYb系準結晶における超伝導の発見、Tb系準結晶での強磁性など発展があり注目を集めている。この中でCeを含んだ準結晶の数は少ないなか、近年合成に成功したCe-Au-Ga系近似結晶のバルク敏感な硬X線Ce 3d内殻光電子分光を行ったところ、両者とも4f電子状態が極めて局在的なスペクトル形状であった。一方で、局在的な4f不完全殻を有するサイトの内殻光電子スペクトルに特徴的な3d94f1終状態多重項構造が大きくぼやけていた。これはCe 3d内殻ピーク幅がeVスケールで広くなっていることに由来するが、その起源を解明すべく、古くから知られてchemical disorderのない2元系のCd-Ce近似結晶の内殻光電子分光を行うと、この系では明確な3d94f1終状態多重項構造が観測された。これにより、Ce-Au-Ga系近似結晶におけるchemical disorderが本質的にCe 4f電子構造ひいては価電子全般に影響を与えていることが判明した。また、相対的に広いピーク幅は軟X線光電子分光によって得られたCe-Au-Ga系近似結晶とAu単体のAu 4f内殻光電子スペクトルでも同様に観測された。 さらに我々は励起エネルギーが8.4 eVと低い極低エネルギー光電子分光を分解能10 meVの高分解能で測定した。準結晶においてはこれまで光電子分光でフェルミ準位ごく近傍におけるスペクトル強度の抑制(これを「擬ギャップ」とも呼んでいる、但しフェルミ端そのものは明確に見えることも多い)が報告されているがCe-Au-Ga系においてもわずか(直線的な外挿から10-20%程度の減少)であるが擬ギャップ的な状態が観測された。擬ギャップ的な状態がわずかしか観測されなかった原因としては上述のchemical disorderの影響と考えられる。
|