研究領域 | ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05272
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松本 正和 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (10283459)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水素無秩序氷 / 水素結合ネットワーク / トポロジー / 相互作用 / 超均質性 / 理論化学 |
研究実績の概要 |
本計画では、準結晶が生じる機構を探るべく、できるだけ単純な分子モデルを使い、自由エネルギー計算等を駆使して、相互作用を最適化することを目指した。また、最も単純な分子の一つであるが、非常に複雑な結晶構造を生じうる、水について、新奇な結晶構造を生じさせる方法を検討した。その過程で、氷に異常に長距離の相関と、それによる異常に均質なエネルギー状態が実現していることを発見した。氷には残余エントロピーが観測されること、それはポーリングのモデルにより非常によく近似されることが知られている。氷の結晶の中では、水分子はアイスルールを満たしながら乱雑に配向していることは理解されていたが、その乱雑さに隠された秩序構造には関心が払われていなかった。氷の中のある分子と周囲との相互作用を近い順に積算していくと、近距離では非常に相互作用のばらつきが大きいにもかかわらず、そのばらつきが(何らかの遠距離相関の存在により)相殺され、遠距離まで積算するとほぼ0に収束する。この現象を我々は発見し、超均質性と名付けた。近距離相互作用が(隣接分子のさまざまな配向のせいで)いかに不均質であっても、超均質性のおかげで氷の中の水分子はほぼ同じエネルギー状態になり、それがポーリングの近似を成り立たせている。ではなぜ、近距離の不均質さを、遠方の分子が相殺できるのか。これを説明する合理的なモデルを我々は構築した。超均質性は水素無秩序氷および水素無秩序包接水和物のすべてで発現する一方、今のところ氷以外で同様の現象は起こりそうもなく、水の新たな異常性と考えることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水素無秩序氷は、結晶でありながら乱雑性をかねそなえた、複雑物質のひとつである。また、今回発見した現象は、氷の分子配向構造とトポロジーに深くかかわっており、これまで誰も気付いていなかった異常性と言える。このような現象を発見し、さらにそれに対し説明を与えることができた。氷のように、ある位相幾何学的規則性のもとで乱雑な物質をどうとりあつかえばいいか、ということは、まだ十分に考え尽されていないことが明らかになった。より深く検討することで、まだ他にも未知の異常性を見付けだせると考えている。 今回の発見から派生して、我々は計算機シミュレーションのために、水素無秩序氷の構造を超高速で生成するアルゴリズムを発見した。このアルゴリズムは、これまで使われていたいずれよりも桁違いに速いのみならず、おそらく当該問題における最速アルゴリズムであると思われる。本研究で、氷を扱う場合には長距離の相関が非常に重要な意味をもつことが明らかになったが、長距離相関を正確に再現するためには、より大きな(分子数の多い)シミュレーションを行う必要があるため、このような高速なアルゴリズムは今後需要が高まると予想している。
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今後の研究の推進方策 |
氷と似た位相幾何学的規則性を持つ系として、スピンアイスがある。スピンアイスは準結晶分野とも関わりが深く、スピンアイスにも超均質性が発見される可能性がある。スピンアイスで超均質性が発現する条件を見付けるとともに、それを観測する方法を実験家と共同で開発する。平行して、新奇で複雑なな氷結晶構造を生成するための方法を探る。
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