研究領域 | ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05276
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山浦 一成 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, グループリーダー (70391216)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化物 / 準結晶 / 高圧合成 |
研究実績の概要 |
1984年にDaniel Shechtman博士(2011年度ノーベル化学賞)が準結晶を発見してから、それまでの結晶学が不完全であったことが明確となり、さらに2010年代になってから準結晶の超伝導や反強磁性や量子臨界現象が次々と発見され、それらを集約する新学理「ハイパーマテリアル」の創出が始まった。 準結晶の研究は発見当初から合金系が主流だったが、材料化へ向かう発展性を担保するために酸化物系も必要とされた。だが酸化物系の合成は極めて困難だった。唯一の合成例は白金基板上に成長した強誘電体(BaTiO3)を母相とするナノスケール体のみだった。 合金系では金属結合と共有結合の共存が準周期性の安定化に重要とされているが酸化物系ではほとんど不明だ。酸化物系準結晶のバルク体を合成するためには、その安定化機構を探求することから始める必要がある。本課題では唯一のBaTiO3を母相とするナノスケール体を参照として、酸化物系準結晶のバルク体(焼結体や単結晶)の合成に効果的な安定化機構を探求した。 2020年度はBaTiO3のバルク体(焼結体)を起点に、先行研究の結果を参照して、酸素量を大きく欠損させるなど、通常では不安定なレベルで欠損構造の導入を試みた。実験には高温高圧合成法を用いた。6万気圧で熱処理した試料はBaTiO3と未知相が共存した。未知相の同定を目的として放射光X線回折実験や電子線回折実験を進めたが、同定には至らなかった。解析が困難だった原因の一つとして、未知相が化学的に極めて不安定であり、空気中で短時間に変質してしまうことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
白金基板上に成長したBaTiO3薄膜を還元処理して得られた準周期構造について、酸素に3配位されたTiの混合原子価(3、4価)や化学量論性に15%程度の幅をもつ金属組成などが報告された。これらの先行研究の結果を参照として、Ba-Ti-O系で報告された酸化物系準結晶のバルク単相の合成を検討した。Ba2TiO4(研究室で調製)、TiO2、Ti粉末を出発組成BaTiO3-d(0<d<1)に合わせて混合した。混合粉末を白金カプセルに密閉して3-6万気圧、800-1200℃の範囲で熱処理した。圧力下での熱処理時間は30分、または最長で2時間だった。 出発組成BaTiO2.5とBaTiO3.0の混合粉末を6万気圧、800℃で1時間熱処理した焼結体を対象に、当初は実験室系X装置を使用して回折パターンを測定したが、回析パターンが不明瞭なためBL15XUの高分解能ゴニオを利用して再測定した。出発組成BaTiO3.0のパターンはチタン酸バリウムの正方晶系構造モデルのパターンと合致するが、BaTiO2.5のパターンはBa-Ti-O系バルク体の既存構造モデルに見られない特徴を含んでいる。主ピークを含む一部は立方晶系チタン酸バリウムに由来すると推認されるが、他の構造体が共存している可能性があるため、電子線回折実験を含めた調査を進めたが、これまでのところ化学組成や結晶構造の同定には至らなかった。全般として、計画に沿っておおむね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
通常、BaTiO3は十分に高温で立方晶の対称性を持ち、室温近傍で正方晶に歪んだ分極構造を持つ。この結晶構造の温度変化の様子は実用誘電体の機能に直結するため、詳細に調べられている。高圧処理したBa-Ti-O系試料を純水で超音波洗浄したところ、立方晶の対称性を持つ構造体のみが残留した。BaTiO3が室温で立方晶となることは通常ないため、何らかの欠損構造が関係している可能性がある。放射光X線回折パターンの解析を含めてさらに調査を進める必要がある。この結果は、長く議論が続いている実用誘電体BaTiO3の機能発現機構について新たな知見を与える可能性がある。 現在、さらにSr部分置換体、La部分置換体、酸素欠損や金属不定比を導入した不定比組成体の合成を進めている。これまでの経緯から、それらの構造の詳細を解析するためには放射光源を用いる回折実験が不可欠と思われるため、放射光X線実験を計画している。また、一部の亜酸化物は3次元クラスター構造を持つと報告されている。2021年度は亜酸化物に重点を移して、クラスター構造と特徴とする3次元準結晶亜酸化物の探索を進める。
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