研究領域 | ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05277
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
吉澤 俊介 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主任研究員 (60583276)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 走査トンネル顕微鏡 / 不整合変調構造 / 電子定在波 |
研究実績の概要 |
本公募研究では、不整合変調構造やミスフィット化合物をふくむ非周期結晶において、それに特有の乱れが物性に与える影響を走査トンネル顕微鏡実験から明らかにすることを目指す。非周期結晶の構造を正確に測定するため、フーリエ変換フィルタによる変異抽出手法を複数周波数成分に対して行う。 令和二年度は、一軸性の不整合変調構造を持つインジウム原子層超伝導体In/Si(111)の極低温走査トンネル顕微鏡実験を行なった。試料作製条件を調整した結果、部分的ながら非常に欠陥の少ない表面を得ることができた。フェルミエネルギー付近の分光イメージを取得し、これまで観測することのできなかった電子定在波を明瞭に観測することができた。電子定在波に含まれる周波数成分をフーリエ変換解析により調べたところ、単位胞より小さな定在波が生じているという、一見奇妙な現象が起きていることが分かった。これは結晶運動量の高調波成分を含むブロッホ状態どうしの干渉として理解することができる。この解釈が正しいことを検証するため、密度汎関数理論計算を行い、フェルミ面近傍の波動関数(コーン・シャム軌道)を各運動量に対して出力した。その出力を用いて電子定在波のシミュレーションを行ったところ、実験で観測されたフーリエ変換パターンの主要な特徴を再現することができた。この結果は、電子定在波からブロッホ状態の情報を引き出せることを意味するとともに、密度汎関数理論による簡便なシミュレーション方法を提案するものである。現在論文としてまとめている。 走査トンネル顕微鏡装置にリークが発生したため、実験計画を途中で停止せざるを得なくなったが、修理は完了しており、次年度の実験には影響が無い見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
走査トンネル顕微鏡による物性研究において電子定在波(準粒子干渉)の観測と解析は非常によく行われている。通常は平面波同士の干渉として解析されるが、今年度の得られたブロッホ状態の干渉の知見は、従来の解析では不十分であることを意味する。非周期結晶の分野を超えてインパクトがあると考える。この成果は公募研究で参画している他の研究者との議論によって著しく進展した経緯があり、間違いなく本新学術領域のおかげで得られたものである。 装置のリークが発生した関係で当初計画が進まなかった半面、当初予期していなかった重要な成果が得られた。リーク自体は修理され令和三年度の実験に影響が無いことから、総合しておおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は電荷密度波と超伝導が共存する NbSe2 のSTM実験を行い、電荷密度波の詳細構造(とくにドメイン構造)の可視化を試み、超伝導状態との関連を超伝導ギャップ測定やボルテックス観測によって調べる。単結晶試料は購入したものがあるが、予備実験において欠陥が多いことが判明したため、別の育成方法の単結晶試料で再度実験を行う予定である。また、現状では温度依存性や磁場印加のために温度上昇制御を行う際、STMが取り付けてある3Heクライオスタットの断熱真空管に入れてある熱交換ガスを排気し、さらに数時間待つ必要があった。これを効率化するため、試料ホルダーに簡易のヒーターを取り付ける。 その後は超伝導を示すPb/Si(111)のstriped incommensurate phaseと呼ばれる相を作製し、不整合変調構造の可視化と超伝導との関連を調べる。計画班や公募班から試料の提供があった際には、計画を柔軟に変更して共同研究を進める。 前年度に出ているデータを論文としてまとめ投稿する。
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