研究領域 | 蓄電固体デバイスの創成に向けた界面イオンダイナミクスの科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05288
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
本山 宗主 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (30705752)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 固体電解質 / Li金属 / 界面の親和性 |
研究実績の概要 |
無機固体電解質を用いた蓄電池は、Li金属を負極に用いることで、理論上、従来のLiイオン電池を超えるエネルギー密度を達成できる。しかし、柔軟性のない無機固体電解質を介し、同じく固体であるLi金属を可逆的かつ均一に繰り返し充電、放電させることは容易ではない。一方で、申請者のこれまでの研究から、Li金属の析出溶解反応の可逆性は、無機固体電解質の表面状態によって劇的に変化することがわかっている。しかし、その原因については、必ずしも原子・分子スケールでの理解が得られているわけではない。そこで本研究では、『Liの析出および溶解反応を可逆的かつ均一に進行させる無機固体電解質の表面』が持つ特性を原子・分子スケールの観点から理解することを目的とする。 真空中でLiの金属箔を加熱し、溶融したLiをLiイオン伝導性の酸化物系無機固体電解質であるLi6.6La3Zr1.6Ta0.4O12やリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)上に滴下した。その後、常温まで冷却し、Liと無機固体電解質の「擬」接触角を測定した。 SUS上にLiPON薄膜を作製し、所定の時間、大気暴露させた。これらのLiPON試料上に溶融させたLiを滴下し、それぞれの「擬」接触角とLi/LiPON界面の電荷移動抵抗を測定した。大気と接した時間が長くなるにつれ、Li/LiPON界面の電荷移動抵抗が増加した。また同時に、Li との間の「擬」接触角も増加することがわかった。これは、大気中で、Li2CO3やLiOHがLiPON表面に形成され、それらが時間とともに緻密化したためと考えられる。LiPON表面で起こる化学的な変化は、当然、Li/LiPON界面の電荷移動抵抗に影響すると考えられるが、今回の実験により、電荷移動抵抗が大きいLi/LiPON界面は、同時に濡れ性が低い(界面エネルギーが大きい)ことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Li/無機固体電解質界面の化学状態を硬X線光電子分光法(HAXPES)で測定する予定であったが、共同研究先の装置が故障したことで測定を実施できず、当初の計画通り進まなかった面もある。 一方、LiPONを用いた実験では、Li/LiPON界面の電荷移動抵抗の増加にともない、Liの「擬」接触角も増加するという傾向を明らかにできた。ガーネット型固体電解質(doped/undoped Li7La3Zr2O12)以外の系でも、Liとの親和性の低下にともない、電荷移動抵抗が増加するということを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、真空中で溶融させたLiを酸化物系無機固体電解質であるLi6.6La3Zr1.6Ta0.4O12やLiPON上に落下させ、その後、凝固したLiとの間で形成される接触角を測定してきた。しかし、この手法では、落下する過程でLiが凝固している恐れがある。すなわち、無機固体電解質との界面の接触角を測定しても、信頼性が高いデータとして扱うことができるか危うい。そのため、初年度は、測定した接触角を「擬」接触角と表現してきた。 最終年度は、真空環境下で無機固体電解質の温度をLiの融点以上に制御する機構を導入する。このシステムを構築できれば、溶融Liを落下させた後でも、固体電解質上でLiを溶融させた状態に保つことができる。その後、凝固させれば、信頼性の高い接触角のデータが得られると考えられる。なお、無機固体電解質上で直接Liを溶融させると、融点よりもかなり高い温度まで昇温させることになり、LiPONの結晶化が起こる。そのため、本研究では、一度、溶融させたLiを落下させる手法を採用する。 また、共同研究を通じて第一原理計算を行い、「電荷移動抵抗」と「界面の親和性」の相関に解釈を与える。また、HAXPESの方も、装置が復旧し次第、測定を始める。
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