前年度は、露点が-80 ℃以下のグローブボックス内に設置した高真空下のベルジャーの中でLi箔を溶融させ、それをRFマグネトロンスパッタリング法を用いて作製したリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)上に滴下し、冷却後、接触角を測定するという手法でLiとLiPON間の濡れ性を擬似的に評価した。溶融したLiの接触角を直接観察する手法ではなかったが、LiPONの大気暴露時間の増大にともない接触角が増大するなど、表面の変化(炭酸リチウムの被覆率の増大)に応じた傾向が確認できたため、今年度は、より精密な測定に取り組んだ。 まず、ベルジャーの側壁にフィードスルーとビューポートを取り付けた。これによりベルジャーの中へヒーターと熱電対を導入できた。ヒーター、熱電対、LiPON試料は、同一の真鍮板上に設置した。すなわち、熱電対で真鍮板の温度を測定しながら、真鍮板を介してLiPON試料を加熱した。Li箔は、LiPONと接触させながら、別途タングステン線を介して加熱した。 LiPONは、240 ℃以上の温度で加熱されると結晶化し、亀裂を生じ、基板から剥離する。そこで、Liの融点である181 ℃よりも高く、220 ℃未満の温度域でヒーターの温度を制御した。自作した加熱機構によって、LiPONを結晶化させることなくLiを溶融させ、接触角をビュートポートから直接観察できた。なお、真鍮板の温度が181 ℃を超えた付近からLi が溶融し始めることを観察し、ヒーターの温度制御が精密に行えていることを確認した。 LiPONの製膜位置(スパッタ中心からの距離)を変えることでN/P比が異なるLiPON薄膜を作製できた。スパッタ中心からより離れた位置で製膜したLiPONを用いると、Liの接触角がわずかに低下する傾向が認められた。すなわち、N/P比が高くなると、Liとの親和性が低下することが明らかとなった。
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