これまで,蓄電固体界面における特異なイオン輸送特性やイオン蓄積挙動のメカニズムを理解することを目的に,MeVイオンビームを用いた弾性反跳粒子検出(ERDA)法による,界面近傍のLi濃度分布の直接測定が実現されてきた.本研究では,この手法をさらに発展させた飛行時間測定型(TOF-)ERDA分析のための新たな測定システムを構築し,元素分離された高分解のLi濃度分布の測定を実現することを目指して研究を進めている. 本年度はまず,昨年度に部品製作を概ね完了していた2台の透過型検出器を含むTOF測定システムを構築し,専用ビームラインに設置の試料チャンバーに接続した.次に,構築したTOF測定システムの試験として,全固体リチウムイオン電池の固体電解質のひとつとして用いられるLATP試料単体の測定を行い,目的としているLiの分離測定が可能であることを確認した.次に,金試料を用いて,複数の元素に対する検出効率の評価を行った.さらに,使用済みの薄膜リチウムイオン電池試料を再利用して,O,Si,Cuイオンなどのビームでテスト測定を行い,本試料の測定に最適な入射イオン種とエネルギーを検証した.これらの試験結果をもとに,入射イオンとして9 MeV Cuイオンを選択し,薄膜リチウムイオン電池に対するTOF-ERDA測定を実施した.このとき,通常のERDA測定を用いて昨年度に確定した電圧印加条件に基づき,充放電に伴うLi分布の変化を得た.TOF-ERDA法の導入によって,元素分離と同時に分解能の大幅な向上が達成され,界面近傍のLiの深さ分布をnmオーダーの分解能で取得することに成功した.またこれとは別に,本新学術領域研究内の他の研究者との共同研究として,各種試料の水素分析を実施した.
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