全固体電池の材料開発は材料内部の特性の改善を指針に進められてきたが、電極-電解質界面での構造変化が充放電速度や安定性などの電池特性を左右することも事実であり、明確な界面構造の設計指針とこれに資する界面イオン輸送過程の学理構築が求められている。この要望に応えるために、結晶方位と界面接合面積が規定されたエピタキシャル正極薄膜電極を構成要素とする薄膜全固体電池を用い、高速表面X線回折法により電解質/正極界面構造を原子スケールで時分割解析することで、界面構造変化と電池特性の相関を明らかにすることを目的としている。 本年度は、昨年度に引き続いて(001)配向の膜厚50 nmのLi(Ni0.8Co0.2)O2正極薄膜とLi3PO4固体電解質膜の界面における充放電中の構造変化を高速表面X線回折法によりオペランド観察した。正極に印加する電位を変化させ正極からのLiの脱離量を変化させながら観察したところ、Liの脱離量が約70%を超えると正極薄膜の一部が単斜晶構造から菱面体構造に変化し、Liを戻しても完全な単斜晶構造に戻らないことが明らかになった。また、電位掃引速度を変化させてLiの挿入脱離速度を変化させながら構造変化を観察したところ、速度に応じて構造変化の深さ分布が変化することが分かった。昨年度の結果と合わせて、深さ方向のLi分布と電池特性の関係を明らかにすることを目指して解析結果を進めている。他方、アナターゼ型TiO2正極と電解質の界面に挿入したAl2O3ナノ層について、Li挿入により非晶質であったAl2O3ナノ層が結晶配向化することを昨年度発見し、今年度はオペランド観察を行った。その結果、Liの挿入脱離に伴い結晶化と非結晶化が可逆的に生じることを明らかにした。Al2O3はLi伝導体ではないため、Li挿入によりLiを含有した結晶構造に変化していることを想定し、解析を進めている。
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