研究領域 | マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解 |
研究課題/領域番号 |
20H05338
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
吉久 徹 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60212312)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | tRNA / rRNA / 選択的自食作用 / isoacceptor / tRNA結合因子 |
研究実績の概要 |
独自に開発した新規tRNA定量法を用いた酵母のtRNAレパートリー解析により、対数増殖期に比べ定常期では全RNAに占めるtRNAの割合が平均2.7倍に増加することが判った。これは、定常期にはオートファジーの亢進で細胞質が非特異的に分解される際、rRNAの分解が促進される一方でtRNAはこれを回避している可能性を示す。しかも、tRNAの種類間で増加率は異なり、酵母が対数増殖期から定常期に移る間にtRNAは量的調節を受け、これにオートファジーが関わる可能性が示された。そこで、このtRNA量変化へのオートファジーの寄与を、マクロオートファジーに欠損を持つatg欠損変異株を用いて検討した。用いたatg変異は全て、定常期でのtRNA-ArgCCGやtRNA-GlyUCCの量に影響を与えなかったが、tRNA-LysCUUや開始tRNA-Metでは特にatg1やatg2の変異で量が数倍に上昇し、むしろオートファジーが積極的にこれらを分解することが判った。次に、プロテアーゼ阻害剤等で栄養源飢餓時のautophagic body(AB)を安定化し、FISH法によりtRNAの細胞内分布を解析したところ、tRNA-LysCUUや開始tRNA-Metの様にサイトゾルに比べABに強く濃縮されるものとtRNA-TyrGUAや延長tRNA-Metの様にABへの濃縮がそれほど強くないものが存在した。さらに、翻訳延長に関わるtRNA種は類似のAB分布を示したが、開始tRNA-Metは明らかにその一部が他とは異なる顆粒に分布した。ほとんどの開始tRNA-Met顆粒はABの標識タンパク質であるGFP-Atg8ポジティブであることから、開始tRNA-Metの一部は、延長に関わるtRNAと異なるautophagosomeを介して取り込まれる可能性が示された。以上、tRNAの一部は、選択的オートファジーによる量的制御下にあることが想定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の当初計画では、 (1)tRNA およびrRNAのAB 形成時における挙動の詳細解析 (2)オートファジー変異を用いたtRNA 分解を支えるオートファジーモードの解析 の2項目を設定しており、(1)についてはほぼ予定通りの研究進捗を見た(「研究実績の概要」参照)。しかし、(2)については、マクロオートファジーに関する解析とCVT経路の関与が無いことについては目処が立ったものの(「研究実績の概要」参照)、シャペロン依存性オートファジーや膜透過型オートファジーの寄与に関しては現在解析を続けている状況である。この点で、当初予定より若干の遅れがあると自己評価した。ただし、この遅れは2021年度の計画と並行して進めることで、消化出来るものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
前項に示すとおり、2020年度の計画の一部の積み残しを遅滞なく進めると供に、2021年度は当初予定した以下の項目に解析の軸足を移す。 (1)オートファジーの時系列解析に加え、様々な段階でオートファジーが停止する変異株を用いて、特定のtRNAが濃縮されたサイトゾル領域がいつ形成されるか検討する。とりわけ、tRNAやrRNAがメジャーなサイトゾル成分であること、動物細胞のaggrephagyではp62による液液相分離が関わることから、tRNAの濃縮領域の形成が相分離である可能性を、相分離阻害剤である1,6-hexanediol処理細胞のFISH解析等で検討する。 (4)tRNA種間のオートファジーの特異性の違いに、既知のtRNA結合タンパク質であるARSやeEF1A、eIF2等の翻訳関連因子が関与する可能性を、tRNAとこれら因子それぞれの変異の影響を(1)同様の手法で検討する。さらに、ミクロオートファジーがtRNautophagyを担う場合、tRNAの認識分子は液胞膜上にあると考えられるので、そのような分子をbiotin化tRNAとUV架橋し、逆CLIP法で単離、同定を目指す。
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