独自に開発した新規tRNA定量法を用いた出芽酵母のtRNAレパートリー解析により、対数増殖期と定常期ではtRNAレパートリーが異なり、tRNA種ごとの量的調節が示唆された。定常期にはオートファジーの亢進で細胞質が非特異的に分解されるが、その過程でtRNA種に依存して効率の異なるオートファジーが起きる可能性が考えられた。事実、栄養飢餓条件下、液胞内のautophagic body(AB)を安定化してtRNAの局在をFISH法で比較したところ、調べたtRNA全てABに濃縮され、tRNAはマクロオートファジーで液胞に運ばれることが判った。その一方で、tRNA-LysCUUやなど翻訳延長に関わるtRNAと翻訳開始用tRNA-Metでは異なるAB分布を示した。また、翻訳延長に関わるtRNA群は、rRNAと同じAB分布を示すことも判った。こうしたことから、翻訳開始用tRNA-Metは、他のtRNAとは異なる選択的オートファジーで分解される可能性が示唆された。異なったtRNA種の分離段階を調べるために、隔離膜が閉じてautophagosome(AS)が形成される過程を阻害するvps4変異、ASが液胞膜と融合できないypt7変異などでFISH解析を行ったが、細胞質内に翻訳延長用tRNAと翻訳開始用tRNA-Metが分離して存在するサイトゾル領域は明確に見出せなかった。また、両tRNAを識別する因子としては、翻訳延長因子eEF1Aと翻訳開始因子eIF2が知られているが、これらの栄養飢餓時の細胞内動態をオートファジーマーカーであるGFP-Atg8と比較したが、やはり、明確にAS等への集積は観察されなかった。現時点では、tRNautophagyにおいて翻訳開始用tRNA-Metが他のtRNA種とどのように選別されているかは不明であり、今後の解析が必要である。
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