静止期出芽酵母では液胞膜の特殊なミクロドメインが細胞質中の脂肪滴を包みながら液胞内腔に陥入することで、すなわちミクロオートファジーにより脂肪滴を液胞内に取り込む(=静止期ミクロリポファジー)。静止期ミクロリポファジーを駆動する分子メカニズムはいまだ多くが未解明である。本年度はオートファジー関連遺伝子(atg)欠損細胞において、ミクロドメイン形成に必須なステロール輸送タンパク質Ncr1とNpc2の異常局在が引き起こされる原因について検討した。 静止期のatg欠損細胞ではVph1などの液胞タンパク質が正常な分布を示すのに対し、Ncr1とNpc2は液胞に分布せず、液胞外のドット様構造に集積する。このようなNcr1とNpc2の分布異常は増殖期では起こらず、静止期でのみ起きる。この原因を調べるためatg7欠損細胞の静止期培地を除去し、フレッシュな培地に交換したところ、予想外の早い時間(5分以内)で局在異常は解消された。さらに、この細胞を再び元の培地に戻すことで異常局在が再誘導されることがわかった。またatg7欠損細胞の培地を野生型細胞の静止期培地や蒸留水に交換した場合も異常局在が解消された。逆に野生型細胞をatg7欠損細胞の静止期培地で培養した場合も異常局在が誘導された。これらの結果から、Ncr1とNpc2の異常局在の原因がグルコースやアミノ酸など栄養素の枯渇ではなく、atg7欠損細胞の静止期培地に含まれる何らかの物質であると考えられた。この観点から検討を進め、atg7欠損細胞培地中には野生型細胞のおよそ2倍量のXが含まれていることを見出した。またatg7欠損細胞培地とX濃度を揃えたWT培地、もしくはXを添加した蒸留水だけで、atg7欠損細胞だけでなくWTにもNcr1/Npc2異常局在が誘導されることが分かった。これらの結果からXがNcr1/Npc2局在異常を引き起こすことが示された。
|