研究領域 | マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解 |
研究課題/領域番号 |
20H05345
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
浅川 和秀 東京医科大学, 医学部, 准教授 (30515664)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オートファジー流動 / 運動ニューロン / エネルギー代謝 / mTORC1 / TDP-43 / ATP / 光遺伝学 / 相転移 |
研究実績の概要 |
本研究は、筋肉の収縮を指令する神経細胞「運動ニューロン」が、中枢神経系の他の細胞種(感覚ニューロンや介在ニューロン)よりも亢進したマクロオートファジー活性(以下、オートファジー流動)を示す、というゼブラフィッシュにおける観察結果を起点として、筋萎縮性側索硬化症(ALS)において運動ニューロンが選択的に変性するという現象と、オートファジー流動の亢進との関係性を検証することを目指している。 令和2年度は、運動ニューロンの亢進したオートファジー流動が、エネルギー需要が高いという運動ニューロンの個性の顕れではないかと予想し、細胞のエネルギー媒介物質であるATPの増減を蛍光比でモニターするレポーターを発現するゼブラフィッシュ系統の作製に取り組み、成功した。次に、運動ニューロンの細胞内ATPレベルの維持に対するオートファジー流動の貢献を検証する為に、オートファジー流動の抑制につながるmTOR経路の活性化が、細胞内ATPレベルに及ぼす影響を検証した。その結果、mTORC1の過剰発現は、運動ニューロンの細胞内ATPレベルを減少させることがわかった。この結果から、相対的に亢進した運動ニューロンのオートファジー流動は、エネルギー供給におけるオートファジー流動への依存度の高さを反映している可能性が示唆された。 ALSの変性運動ニューロンでは、DNA/RNA結合タンパク質TDP-43の凝集体の蓄積が認められる。ゼブラフィッシュ運動ニューロンにおいて、TDP-43の枯渇はオートファジー流動に影響をほとんど与えないが、TDP-43の過剰発現はオートファジー流動を著しく阻害した。この阻害効果にTDP-43の相転移が関与するか否かを検証する為に、光照射によって相転移をおこす光遺伝学TDP-43とオートファジー流動プローブを共にゼブラフィッシュの運動ニューロンで発現する為の細菌人工染色体の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALSにおいて脆弱性を示す運動ニューロンが、ALS耐性の感覚ニューロンや介在ニューロンよりも、亢進したオートファジー流動を示す原因として、運動ニューロンの比較的高いエネルギー需要をオートファジー流動の活性を上昇させることで賄っている、という仮説を研究開始前に立てた。令和2年度の成果として、(1)運動ニューロンのATPレベルの変動を蛍光変化として捉えることに成功した、また、(2)オートファジー流動が運動ニューロンのATPレベルの維持に寄与していることを支持する結果を得た、という点は本研究の当初の目的の達成に近づくものである。 また、TDP-43の相転移がオートファジー流動に及ぼす影響を生体内運動ニューロンで検証する為のゼブラフィッシュ系統を構築する最初の段階である、光相転移TDP-43プローブとオートファジー流動プローブの同時発現に必要な細菌人工染色体の構築に成功し、現在、トランスジェニック系統を構築中である。当初の予定通りに令和3年度に該当実験が実現する予定である。また、オートファジーの制御因子TBK1をコードする遺伝子を破壊したゼブラフィッシュ系統の作成も予定通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、運動ニューロンにおいて検証に成功した、mTORC1の過剰発現による細胞内ATPレベルの変動のアッセイを、感覚ニューロンと介在ニューロンにおいても実施し、オートファジー流動による細胞内ATPレベルの維持機構の細胞種間での比較を行う。また、mTORC1の過剰発現によるオートファジー流動の抑制とは独立の手法として、オートファジーの制御因子TBK1の破壊系統において細胞内ATPレベルの変動をモニターし、オートファジー流動による細胞内エネルギー供給の細胞種間での比較を行う。 TDP-43の相転移がオートファジー流動に及ぼす影響を検証する実験を実施する。また、光遺伝学TDP-43とATPプローブを共に運動ニューロンで発現する系統を構築し、TDP-43の異常な相転移が、オートファジー流動を抑圧し、細胞内ATPレベルを低下させるか検証する。 以上により、細胞内のエネルギー供給(ATPレベルの維持)におけるオートファジー流動への依存度の高さが、ALSにおけるニューロンの脆弱性を規定する一因となっている、という予想を立てているが、予断をしすぎることなく検証を進めたい。
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