研究領域 | マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解 |
研究課題/領域番号 |
20H05347
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
昆 俊亮 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 講師 (70506641)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞競合 / オートファゴソームの非分解機能 |
研究実績の概要 |
オートファジーはがんの発生・進展に深く関与している。がんの中・後期、すなわち腫瘍組織が拡張・進展する段階では、オートファジーはがん細胞の生存・増殖を助長している。一方、発がんに対してオートファジーは拮抗的に機能することが示唆されているが、その制がん機構の詳細は不明である。近年の研究成果より、上皮細胞層にがん変異を有した細胞が少数産生されると、正常上皮細胞とがん変異細胞との間で生存を争う細胞競合という現象が生じ、変異細胞が管腔へと排除されることが明らかとなってきた。そこで細胞競合におけるオートファジーの役割を検討した結果、正常細胞に取り囲まれたがん変異細胞では、autophagic fluxは遅延するが、変異細胞が管腔へと排除されるためにはオートファゴソームの形成が必要であることを示唆する結果が得られている。そこで本課題では、従来のマクロオートファジー経路もしくはその生理機能とは異なる、細胞競合を正に制御するオートファゴソームの非分解機能を明らかにすることにより、制がん機能を担うオートファジーモードを解明することを目的とした。本年度は、細胞競合依存的にオートファジーの機能が低下する要因の解明に取り組んだ結果、正常細胞に囲まれたがん変異細胞ではリソソームの機能が低下することによって、オートファゴソームの分解が不全となることを見出した。さらに、オートファジーの機能欠損を負荷した場合の細胞競合能を評価した。そのために、ATG5 flox/floxマウスを細胞競合マウスモデル(CK19-CreERT2/LSL-RasV12-ires-eGFPマウス)と掛け合わせ、低濃度のタモキシフェン依存的に活性化Ras変異をモザイクに各臓器上皮細胞に誘導した結果、腸管ならびに膵管にて細胞競合によるRas変異細胞の排除効率がATG5欠損によって有意に低下することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究成果より、細胞競合下のがん変異細胞ではオートファジーのfluxが遅延することが分かっていたが、本年度ではこの遅延の要因を明らかにするためにリソソームの機能を評価した。具体的には、リソソームのpH依存的にリソソームへと取り込まれるlysotrackerを用いてリソソーム機能を評価した結果、Ras変異細胞の単独培養時に比べ、正常細胞に囲まれたRas変異細胞ではリソソームのpuncta数が有意に低下した。さらに、リソソームのカテプシンB活性をその基質であるMagic redの蛍光強度により評価した結果、細胞競合下のRas変異細胞ではMajic redの蛍光強度が顕著に低下することが分かった。これらの結果より、正常細胞と共在したRas変異細胞ではリソソームの機能が低下した結果、オートファジーのfluxが低下することが示唆された。さらに生体内発がんにおけるオートファジーの役割を検討するため、ATG5 flox/floxマウスを細胞競合マウスモデル(CK19-CreERT2/LSL-RasV12-ires-eGFPマウス)と掛け合わせ、オートファジー活性が不全のRas変異細胞の細胞競合による排除率を検討した結果、腸管ならびに膵管にてRas変異細胞の排除率がATG5欠損によって低下することが分かった。また、膵管にて残存したRas変異細胞は拡張し、異型な膵管構造を形成した。これらの結果より、生体内にてオートファジーの活性が細胞競合に必要であり、これが不全であるとがんを進展することが示された。
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今後の研究の推進方策 |
細胞競合における「オートファジーの非分解機能」の分子実態を明らかにするため、2021年度では、BioID法(近位依存性ビオチン標識法)によって、細胞競合下のがん変異細胞のオートファゴソームに選択的に内包される分子を網羅的に探索する。この解析より同定された分子の機能的性質を熟慮して柔軟に研究方針を決定する。例えば、全く機能未知な分子であった場合、その機能的意義ならびに共役因子を究明するために、その分子と結合する因子を免疫沈降法により同定する。一方、シグナル分子のような機能や作用機序の理解がある程度進んでいる場合には、この因子が調節するシグナル経路とオートファジーとの関連を調べるとともに、上流の細胞膜受容体や細胞外結合因子の探索を進める。同定された分子カスケードをATG5がノックダウンされたRas変異細胞に人為的に誘導し(キー分子の活性化、もしくは阻害等)、正常細胞と混合培養条件下での排除率を調べ、ATG5ノックダウンによる細胞競合の機能阻害が回復するか検討する。また、候補因子の細胞内局在が重要であることが示唆された場合には、各オルガネラ局在シグナルを付与したキメラ分子を作成し、Ras変異細胞に導入したときの影響を検討する。さらには、培養細胞ではCRISPR/Cas9によるノックアウト細胞株を樹立、vivoではセンダイウイルス由来のエンベロープを用いて腸管上皮細胞にsiRNAを導入することが可能なintestine-specific gene transfer (iGT) 法を活用し、Ras変異細胞の管腔側への逸脱率がどのように変化するか検討する。これらの結果を統合し、がん変異細胞が細胞競合によって排除されるために必要なオートファジーモードの全容を明らかにする。
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