オートファジーはがんの発生・進展に深く関与している。がんの中・後期、すなわち腫瘍組織が進展する段階では、オートファジーはがん細胞の生存・増殖に寄与する。一方、発がんそのものに対してオートファジーは拮抗的に作用することが示唆されているが、その制がん機構は不明な点が多い。近年の研究成果より、上皮細胞層にがん変異を有する細胞が少数産生されると、正常上皮細胞とがん変異細胞との間で互いに生存を争う細胞競合という現象が生じ、変異細胞が管腔へと排除されることが明らかとなってきた。そこで細胞競合におけるオートファジーの役割を検討した結果、正常細胞に囲まれたがん変異細胞内のautophagic fluxは遅延するが、変異細胞が管腔へと排除されるためにはオートファゴソームの形成が必要であることが分かっていた。そこで本課題では、細胞競合を正に制御するオートファゴソームの非分解機能のを明らかにすることを目的とした。まず細胞競合依存的にオートファジーの機能が低下する要因の解明に取り組んだ結果、正常細胞に囲まれたがん変異細胞ではリソソームの機能が低下することを見出した。さらに、がん変異細胞内で蓄積したオートファゴソームは隣接する正常細胞でのフィラミンの蓄積を誘導し、細胞競合を促進することが分かった。生体内細胞競合におけるオートファジーの役割を評価するために、ATG5 flox/floxマウスを細胞競合マウスモデルと掛け合わせた結果、腸管ならびに膵管にて細胞競合によるRas変異細胞の排除効率が有意に低下した。膵管に残存した変異細胞は膵管管腔内に乳頭状に増加し、膵管構造が破綻した。さらに、これらの異型膵管の周辺には炎症性細胞が蓄積し、慢性膵炎様病変が惹起された。これらの結果より、がん細胞が産生された初期において、オートファジーは細胞競合を制御することにより、上皮恒常性の維持に寄与することを明らかにした。
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