研究領域 | マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解 |
研究課題/領域番号 |
20H05348
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
井端 啓二 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (30462659)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リソソーム / シナプス形成 |
研究実績の概要 |
シナプス形成誘導分子であるCbln1分子は細胞外で機能するが、研究代表者はこれまでにCbln1は軸索のリソソームから神経活動によって細胞外に分泌されることを明らかにしている。また、その分泌機構にはシンタキシン4とSNAP29分子が関与していることを明らかにしている。SNAP29とシンタキシン4はオートファゴソームやオートリソソームからの分泌にも関わる分子である。そこで、シナプス形成誘導分子とオートファジーとの関わりを明らかにすることで、シナプスの数を増減させるメカニズムを理解する。本研究ではCbln1の分泌機構とオートファゴソームやオートリソソームとの関わりを、免疫染色、およびタイムラプスイメージングなどによって調べる。さらにオートファゴソームやオートリソソームからの分泌がシナプス形成や伝達効率を制御するかを明らかにする。また、Cbln1を含む小胞の膜融合や輸送に必要な分子を明らかにするため、近位依存性ビオチン標識法を用いてCbln1の極近傍に存在する分子をビオチン化後、質量分析で同定しCbln1の近傍に存在する分子を網羅的に解析する。現在までに、Cbln1がオートファジーに関わるいくつかの分子と共局在することを明らかにしている。また、近位依存性ビオチン標識法を用いてCbln1の極近傍に存在する分子をビオチン化することに成功している。これらの実験、および今後行う実験によって分泌性のオートファジーが、経験や学習時に起こる神経活動による脳神経回路のシナプス伝達効率の変化やシナプスの形態及び数の変化に関与しているかを明らかにする。精神疾患、神経発達症及び認知症にはシナプスに関連する分子が数多く関わっているため、本研究によって病態解明や治療法開発を大きく進める可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Cbln1とオートファジー関連分子との共局在を免疫染色法にて調べた。小脳顆粒細胞の軸索においてCbln1は粒状(puncta)に染色され、このCbln1 punctaは軸索で点在している。Cbln1が、オートファゴソームやオートリソソームからの分泌に関与しているLC3、Atg5や、その他のオートファジー関連分子であるAtg9やp62と共局在するかを免疫染色法にて解析した。その結果、小脳顆粒細胞にCbln1を過剰発現させた軸索においてCbln1のpunctaがanti-LC3、Atg5、Atg9やp62抗体による染色と一部共局在することが判明した。小脳顆粒細胞の軸索において神経活動依存的なGFP-LC3の輸送が起こることが知られているため、LC3がCbln1と共に輸送されているかを観察したところ、共局在する蛍光分子の一部は共に輸送されていた。さらにCbln1は神経活動依存的に分泌されることから、mCherry-LC3とCbln1-SEPを共発現させ、タイムラプスイメージグで観察した。その結果、mCherry-LC3と共局在するCbln1-SEPが神経活動依存的な分泌を示すことが判明した。これらの結果から、分泌性のオートファジーと神経活動依存的なCbln1の分泌に関連があることが推察された。このCbln1やLC3を含む小胞の膜融合や輸送に必要な分子を明らかにするため、Cbln1-TruboIDを用いた近位依存性ビオチン標識法でCbln1の極近傍に存在する分子をビオチン化した。その結果、Cbln1-TruboIDで特異的なバンドが確認されたため、質量分析用のサンプルを調整中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はオートファジーに関わる分子の制御による Cbln1 の分泌及びシナプス形成への影響を調べる。Cbln1がanti-LC3、Atg5、Atg9やp62抗体による染色と部分的な共局在を示すことが判明し、オートファジーとシナプス形成分子の関わりが示唆された。そこでオートファジーに影響をおよぼす薬剤を用いて、種々の薬剤を投与した際の Cbln1 の分泌も調べる。また、近位依存性ビオチン標識法を用いたCbln1の近傍に存在する分子を網羅的に解析する実験を完成させる。その解析結果から分泌性のオートファジーに関わる分子が確認された場合は、その分子に関するドミナントネガティブ型やノックダウン法を用いて Cbln1 の分泌への影響を調べる。さらに、シナプス形成への影響も調べる。シナプス形成の in vitro での評価方法として、人工的なシナプス形成評価法を用いる。Cbln1分泌への影響を調べるのと同様にドミナントネガティブ型やノックダウン配列を顆粒細胞に発現させ、その培養ディッシュに GluD2 を発現させた HEK293 細胞を添加する。通常は HEK293 細胞が顆粒細胞に接触したと同時に Cbln1 が GluD2 が存在する場所に集まり始める。24時間後にはHEK293 の向かい側に顆粒細胞がプレシナプスを形成する。そこで候補分子のドミナントネガティブ型やノックダウン配列を発現させた顆粒細胞のプレシナプス形成度合いを検討する。Cbln1 分泌の阻害または亢進、プレシナプス形成の異常が起こった場合は、その候補遺伝子のドミナントネガティブ型やノックダウン配列をレトロウイルス、もしくはAAV ウイルスで小脳顆粒細胞へ感染させ発現させる。得られた個体のシナプス形成度合いを免疫染色で検討する。また、感染個体の運動障害の有無を調べる。
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