二倍体の生物である脊椎動物の卵が単為発生刺激を受けて、一倍体(半数体)の胚発生が開始されることがあるが、胚は途中で発生停止する。特に哺乳類の一倍体胚は6-7回分裂する間に多くが発生停止してしまうが、その理由はわかっていない。本研究では、マウス一倍体胚は、細胞や核の大きさは二倍体胚と変わらないがゲノム量が半減しているため、核内のクロマチン密度が二倍体胚の半分であることに着目した。「核内クロマチン密度の半減が引き起こす核膜―クロマチン結合の異常が、胚発生に必要な遺伝子発現を阻害する」という仮説の検証を通し、全能性を獲得する場として機能するために必要な核の構造を明らかにすることを目指した。 本研究ではまず、核内クロマチン密度が受精卵と同等である一倍体胚の作出に取り組んだ。マウス卵に単為発生刺激を与える際にアクチン重合の阻害剤を作用させることで、第二極体放出という非対称な細胞分裂ではなく等割分裂を誘導することができた。これにより細胞の大きさが通常の半分の胚ができ、核内クロマチン密度が受精卵と同等である一倍体胚の作出方法が確立できた。この一倍体胚は、二倍体胚には及ばないものの7割を超える胚盤胞到達率を示したことから、胚発生における核内クロマチン密度、あるいは細胞あたりのゲノムDNA量と細胞質量の比の重要性が明らかになった。また、核内クロマチン密度が半減している一倍体胚では、第二、第三卵割分裂時に高頻度で紡錘体の形成や染色体の分配、細胞質分裂に異常が生じることがわかった。このような分裂期異常は、核内クロマチン密度が二倍体胚と同等の一倍体胚ではほぼ観察されなかったことから、このような分裂期異常が、通常の一倍体胚の発生停止の原因になっていることが推察される。
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