研究領域 | 全能性プログラム:デコーディングからデザインへ |
研究課題/領域番号 |
20H05362
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中馬 新一郎 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 准教授 (20378889)
|
研究期間 (年度) |
2020-10-30 – 2022-03-31
|
キーワード | ゲノム / 遺伝 / 発生 / 生殖 / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
naive 型および primed 型マウス ES 細胞、および、これら ES 細胞から in vitro 分化誘導を行なった外胚葉、中内胚葉細胞、またマウス精原細胞由来の GS 細胞、 胎仔線維芽細胞等を用いて、各種 DNA 損傷刺激、細胞死応答、染色体安定性等を詳細に調べた。これら解析によって、ES 細胞は体細胞と比べて特にチェック ポイント応答が顕著に抑制されており、in vitro 分化誘導に伴ってチェックポイント 応答の回復が見られる事、また、ES 細胞の mutation rate は体細胞と比べて低い一方、 染色体安定性については、ES 細胞と体細胞で同等程度に染色体分配の異常が見られる事が明らかとなった。一方、GS 細胞は mutation rate が ES 細胞、体細胞と比べて明ら かに低く、また、染色体安定性についても各種ゲノムストレスに対して染色体分配の異常が ES 細胞、体細胞と比べて有意に低く抑えられる事が分かった。 また、マウス ES 細胞、GS 細胞、線維芽細胞等から得た RNAseq データ、および、公共データ ベースに登録されているマウス初期発生過程、生殖細胞分化過程、各種体細胞/組織/臓 器、癌細胞等の RNAseq データの網羅的な再解析を行なった。遺伝的安定性に関わる遺伝子群は、細胞周期活性と連動した発現制御が観察される場合が多い事から、RNAseq データを用いた細胞周期活性の指標を新たに設定し(Replication Index)、同指標を基準として各遺伝子の発現変動をノーマライズするRelative Expression against Replication Index (RERI)法を開発した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発生過程を通じた遺伝的安定性に関わる遺伝子群のオミクスデータ再解析については、RERI法の開発により、細胞周期活性と連動する発現制御及び細胞周期活性とは独立した発現変動を初期発生過程、多能性幹細胞、生殖幹細胞などで抽出する事が出来た。また発生段階に応じた遺伝的安定性の各種示標の解析については、多能性幹細胞、生殖幹細胞、体細胞の各種チェックポイント活性の他にmutation rateや染色体動態について相違を整理する事が出来た。更にヒストンH2B-EGFP/mcherryを用いたライブイメージング実験による染色体分離の正確性の検定手法を確立した。遺伝的安定性に関する機能遺伝子群・経路の同定については、変異型dCAS9/CRISPRaシステムを導入したマウスES細胞に対してマウス全転写因子に対するgRNAライブラリーを導入し、gain-of-functionスクリーニングによる機能遺伝子候補の同定を進めた。
|
今後の研究の推進方策 |
マウスES細胞を特定の代謝制御経路の抑制因子の存在下で培養すると、濃度依存的に細胞増殖が抑制されるとともに、 染色体分配エラーが有意に抑制される。同効果は、naive型ES細胞およびLIF-血清培養条件のES細胞で明瞭に観察される一方、primed型ES細胞では広範な細胞死 により解析が困難であった。同経路が多能性幹細胞の発生段階依存的に染色体安定性を制御する分子メカニズムを解明するために、既知の上流及び下流遺伝子の機能操作を行った場合の表現型を調べると共に、糖代謝、呼吸鎖、電子伝達系他、各種代謝経路のクロストーク解明を行う。 また、RNA-seq解析等により遺伝子発現プロファイルの変動を詳細に調べ、染色体安定性に関与する候補因子の機能探索を行う。 また、マウス多能性幹細胞の遺伝的安定性や細胞周期活性に関わる新たな遺伝子群を同定する為に、CRISPRa(転写活性化)を用いたゲノムワイドgRNAスクリーニングを行う。各種培養条件下の継代培養に伴って増減 するgRNAをNGS解析によって機能遺伝子群を同定するとともに、細胞周期活性と染色体安定性の相関解析に取り組む。
|