研究領域 | 全能性プログラム:デコーディングからデザインへ |
研究課題/領域番号 |
20H05364
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
黒木 俊介 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (50735793)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エピゲノム |
研究実績の概要 |
受精卵が全能性を発揮するためには、その前の卵の形成段階から遺伝子発現の正確性が担保されていなければならない。これにはDNAやヒストンの化学修飾を介したエピゲノム制御が深く関わっている。ヒストンH3の9番目リジン (H3K9) のメチル化修飾は転写の抑制マークである。本申請課題では、H3K9脱メチル化EraserのうちJmjd1aとJmjd1bに注目し、これらの初期胚の発生における母性因子としての機能を解析した。卵子特異的なJmjd1a/b-KOマウスを作出し野生型の雄と交配した結果、著しく妊孕性と産仔数が低下していた。Jmjd1a/b-KO卵を野生型精子と体外受精させると、2細胞胚から発生が遅延し胞胚期まで到達しないことから、母性のJmjd1a/bが初期胚発生の必要なことが明らかになった。Jmjd1a/b-KO卵子の受精後の発生をタイムラプスイメージングでした結果、全ての胚で細胞質のblebbingが起きた、また一部の胚でG1期移行, 核膜崩壊, anaphaseの進行や染色体分離のステップに異常が観察された。この原因を明らかにするためJmjd1a/b-KO卵子と野生型卵子の核置換実験を行ったところ、野生型の核をJmjd1a/b-KO卵子に移植した胚で発生の異常が観察されたことから、少なくともKO卵子細胞質に原因があることが示唆された。Jmjd1a/b-KO卵子のトランスクリプトーム解析を行った結果、約600の遺伝子が有意に発現が変化し、その中にはリボソーム合成や染色体分配に関わる遺伝子など発生に重要と考えられる遺伝子が含まれていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
母性Jmjd1a/b 欠損卵子の解析において、(1) 初期胚のタイムラプスイメージング (理研・北島博士と京極博士), (2) 核置換による胚発生観察(理研・小倉博士と的場博士), (3) トランスクリプトーム解析とエピゲノムシーケンス解析 (DNAメチル化, H3K27me3とH3K9me2) (理研・井上博士) をそれぞれ共同研究として実施した。
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今後の研究の推進方策 |
母性Jmjd1a/b-KOが初期胚の遺伝子発現パターンに与える影響を明らかにする。遺伝学的レスキュー実験により、H3K9メチル化量のバランスが胚発生に果たす役割を明らかにする。一連の結果から、発生異常の原因を説明しうる遺伝子を抽出し、レスキュー実験により検証する。母性Jmjd1a/b-KOの2-cell胚 におけるRNA-シークエンスを実施し、母性Jmjd1a/b-KOが、卵および初期胚の遺伝子発現に与える影響を明らかにする。特に2細胞期における転移因子の活性化、胚性遺伝子活性化、インプリンティング遺伝子発現への影響に注目して解析する。母性Jmjd1a/-KO胚の遺伝学的レスキュー実験を二つ行う。一つ目は、Cre存在下でJmjd1aまたはJmjd1a(H1122A) (酵素活性欠失変異体) をRosa26遺伝子座に発現するマウスを作出、Jmjd1a/b-KOマウス背景に導入する。レスキューの可否により、実際にJmjd1の酵素活性が初期胚発生に必要なのか検証する。2つ目に、卵子特異的G9a/Jmjd1a/b-三重欠損マウスを作出する。Writer/Eraserの両方を欠失することにより、H3K9メチル化の乱れがが解消され、胚発生がレスキューされるか否か検証する。一連のJmjd1a/-KO胚の解析から得られたエピゲノム・遺伝子発現のデータと、既報のH3K9メチル化Writer欠損胚のデータを統合比較する。ここから、母性H3K9メチル化の乱れが引きおこす胚発生異常の原因となり得る遺伝子をリストアップする。
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