特異的な非コードRNAを骨格にして形成される核内相分離構造体の内部構造と作動機構の解析を通して、その継承機構を明らかにすることを目的として研究を実施した。前年度に引き続き、熱ストレスによって特異的に形成される核内ストレス体(nSB)の温度変化によって生じる内部変化と機能を追跡する研究をさらに進めた。前年度までに、熱ストレス後のリカバリー期になると、リン酸化酵素CLK1がnSB内にリクルートされてnSBがスプライシング制御因子のリン酸化の「るつぼ」として働き、それによって温度変化に応答したRNAスプライシングを効率良く制御していること、またnSBの骨格分子であるHSATIII ncRNAが高度にm6A修飾され、m6A修飾のリーダータンパク質YTHDC1をnSBに繋留する「スポンジ」機能によって、やはり温度依存的スプライシングを制御していることを明らかにした。今年度は、この「るつぼ」と「スポンジ」という2つの機構がお互いに独立して働いていることを、各機構のキー因子の機能阻害実験によって明らかにした。またその独立性をもたらす機構として、るつぼ機構に関わるSRSF9とスポンジ機構に関わるYTHDC1が、HSATIII主要配列のGGAAUリピートの非メチル化配列とメチル化配列にそれぞれ特異的に結合することを、in vitro RNAプルダウン実験によって明らかにした。さらに超解像顕微鏡を用いたnSB観察で、るつぼ因子とスポンジ因子はnSB構造内の異なる部位に局在していることを示すデータを得た。これによって、HSATIII ncRNAの部分的なm6Aメチル化によって、メチル化部位と非メチル化部位を起点に2つの異なるRNP装置が形成され、それぞれがるつぼ、スポンジという機構を介して、異なるpre-mRNA群の温度依存的スプライシングを制御していることが明らかになった。
|