哺乳類では、両親の生殖細胞から異なるパターンのエピゲノム情報が子に受け継がれ、これにより一部遺伝子のアレル間で異なる発現調節を行うゲノム刷り込み現象が知られている。一般的には、同現象の継世代エピゲノム情報はDNAメチル化と考えられているが、我々は先行研究において、Igf2/H19刷り込み遺伝子座のH19-ICR配列においては、さらに上位階層の(DNAメチル化以外の)生殖細胞由来エピゲノム修飾も存在し、受精後初期胚におけるアレル特異的DNAメチル化パターンの維持を担うことを見出した。 本研究では、同修飾の制御因子をenChIP法によって探索するために、FLAG-HAタグ付加dCas9タンパク質と、H19-ICRを認識するガイドRNAの発現ユニットを、導入遺伝子の高発現が見込まれるROSA26 locusに挿入したノックインマウスを作製した。同マウスの解析を進めたが、期待に反してdCas9/gRNAの発現量が不十分であり、H19-ICR上で形成される複合体の精製回収は困難であることが判明した。そこで結合因子の探索を、細胞核抽出液のカラムクロマトグラフィー分画とH19-ICR配列を用いたゲルシフト解析を組み合わせた生化学的方法に変更した。これにより、H19-ICRのメチル化制御コア配列に結合するタンパク質を複数同定した。これらを候補制御タンパク質とし、遺伝子ノックアウトマウスの作製を行い、機能の検証を進めている。 並行して、ゲノム編集によりH19 ICR配列をマウス内在遺伝子座において反転させる実験も行った。その結果、H19遺伝子プロモーターのDNAメチル化は低下したが、父由来H19 ICR自体は野生型と同様に高メチル化を維持していた。したがって、H19 ICRに結合してメチル化を維持する因子は、H19 ICR周辺の配列とは独立して機能することが示唆された。
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