研究実績の概要 |
幹細胞は、発生初期には自己複製によりその数を増やし、あるタイミングになると分化細胞を産生する。すなわち、複製・維持されている非ゲノム情報を、あるタイミングで変換することで、適切な組織を構築できる。本研究では、神経幹細胞が自己複製を繰り返す増殖期からニューロン分化を開始する時期にかけて非ゲノム情報であるオープンクロマチン領域をどのように複製・維持あるいは変換することでその運命を制御しているのかを明らかにする。 本年度は、増殖機からニューロン分化期にかけて神経幹細胞が獲得する領域特異的な非ゲノム情報を明らかにすることができた(Eto#, KIshi#* et al., Nat. Comm., 2020)。胎生期の脳内で背側の神経幹細胞は興奮性ニューロンを、腹側の神経幹細胞は抑制性ニューロンを産生することで将来の機能的な脳の構築に貢献する。この背側と腹側を適切に誘導するためには、背側誘導因子であるBMP, Wntと、腹側誘導因子であるShhが正しい位置で発現することが重要である。私たちの研究により、クロマチン構造制御因子であるポリコーム群タンパク質がBMP, Wntの異所的な発現を抑制することで、適切な領域化を誘導していることを明らかにした。 興奮性ニューロンと抑制性ニューロンのバランスに異常が生じると、自閉症などの神経発達障害を引き起こすことが明らかとなっているため、脳発生初期の領域化は非常に重要なイベントである。本研究により、脳領域化を制御する非ゲノム情報としてのポリコーム群タンパク質の機能を明らかにすることができた。
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