研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
20H05392
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高橋 達郎 九州大学, 理学研究院, 教授 (50452420)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ミスマッチ修復 / クロマチン / ツメガエル卵抽出液 / DNA複製 / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
ミスマッチ修復(MMR)の効率はヘテロクロマチン領域で低く、ユークロマチン領域で高いことが最近分かってきた。クロマチン構造はMMR反応にとって本質的に阻害的であり、クロマチンリモデリング因子Smarcad1やヒストンシャペロンFACTなどの補助因子がミスマッチ周辺でヌクレオソームを排除することでクロマチン上のMMRを促進する。本研究では、非ゲノム情報がMMRに及ぼす影響とその背後にあるメカニズム、及びその逆に、MMRが非ゲノム情報維持に及ぼす影響を明らかにし、ゲノム情報の正確性維持機構と非ゲノム情報維持機構の新規クロストークを解明することを目的に研究を行った。本研究以前に、我々はMutSα、Smarcad1、FACTの三因子によってミスマッチに近接したヌクレオソームがリモデルされることを発見していた。本年度は、この実験系に対する他のヒストンシャペロンの影響を検討し、ヌクレオソームリモデリングに影響を及ぼすヒストンシャペロンの同定に成功した。また、実験系を再検討し、Smarcad1がヌクレオソームリモデリングに及ぼす具体的な作用を解析した。Smarcad1とMutSαの二者はヌクレオソームの構造変換を引き起こすのに十分な機能を持ち、その構造変換の実態はヌクレオソームを構成するヒストン分子の一部をヌクレオソームから抜き出すことであると考えられた。またFACTなどのヒストンシャペロンは、この抜き出し反応には影響を与えないが、その後、ヌクレオソームを構成するDNAへの接近可能性を高めることが分かった。これらの結果は、リモデリング因子であるSmarcad1とヒストンシャペロンはそれぞれ異なるステップに機能しており、Smarcad1が働いて構造変換を受けたヌクレオソームにヒストンシャペロンが働きかけ、ヌクレオソームDNAへのアクセシビリティを高めていると推定される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験系の構築は順調に進展し、ヒストン、MutSα、Smarcad1、FACTおよび他のヒストンシャペロンを用いてヌクレオソームリモデリングの試験管内再現と、リモデリングの具体的な素反応の解明が進みつつある。またヒストンシャペロンとリモデリング因子が機能するステップの違いも分かってきた。これらに加え、ヒストン修飾を系に導入する準備も進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、先年度得られた知見を進展させ、ヒストンシャペロンとSmarcad1が、具体的にヌクレオソームをどのように変換し、どのような素過程を経て最終的にヌクレオソームの排除に至るかを、さらに詳細に解析する。また、再構成実験系に修飾ヒストンを導入し、ヒストン修飾がヌクレオソームリモデリング反応に与える影響や、どの過程に影響を与えるかを解明する。特にミスマッチ修復に影響すると考えられている、Histone H3 K36メチル化については重点的に解析する予定である。その他、一般的なユークロマチンマーク、ヘテロクロマチンマークについても解析を進める。ヘテロクロマチンマークのうち、特にHistone H3 K9のメチル化については、それに結合するヘテロクロマチンタンパク質HP1の影響についても併せて検討を行う予定である。以上に加え、ヒストン修飾がMMRに与える影響を明確に解き明かすため、昨年度に引き続きクロマチン上でのMMRの完全試験管内再構成を進める。昨年度は、精製因子によるMMR初期過程(鎖除去反応)の再構築に成功した。本年度はこれを進展させ、ヌクレオソームがMMRの初期過程にどのような影響を与えるかを解析する。
|