研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
20H05399
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
正井 久雄 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 所長 (40229349)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グアニン4重鎖構造 / 複製開始 / RNA-DNAハイブリッド / 大腸菌染色体 / 複製環境適応 / 非ゲノム情報 / 変異 / 組換え |
研究実績の概要 |
典型的な非B型DNA構造である、グアニン4重鎖(G4)構造は、生物種を問わず普遍的に存在し、その生物学的機能も次々と報告されている。G4は、配列ではなく、形成する核酸形態が重要な役割を果たす。又、G4の形成と崩壊は、生体内でダイナミックに変動している可能性があり、これまで見逃されている重要な非ゲノム情報である。数年前にヒトを含む高等生物の複製起点の近傍に高い頻度でG4形成配列が存在する事が明らかとなり、G4の複製開始における役割が示唆された。私たちは、G4がDNA複製開始のシグナルとして、あるいは、複製を抑制するクロマチン形成の拠点として機能することを発見した。本研究では、非ゲノム情報としてのG4の細胞内でのダイナミックな形成が、DNA複製開始をどのように制御するか、またその存在がゲノムの安定な維持継承にどのような影響を及ぼすかを解析し、その分子機構と生物学的意義の解明を目指す。その結果、大腸菌染色体の第二の複製システムは、RNA-DNA ハイブリッド/G4構造が、その複製開始の重要なシグナルであることを強く示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)G4/RNA-DNAハイブリッドに依存したDNA複製機構・生物学的意義の解明 (1) これまでの研究により、RNaseH変異株で観察される大腸菌染色体の第二の複製システムの開始部位oriT1をter領域に同定した。oriT1が別の領域に転移した株において、移動したoriT1から複製が開始することを確認した。又移動したoriT1は、元のter領域の欠損による複製開始の低下を相補した。このことは同定したoriT1が、自律的に複製開始能力を有することを示す。(2) T7 RNAポリメラーゼによる転写で形成するRNA-DNA hybrid構造からDNA複製が開始できるか、in vitroで検証した結果、形成されたRNA-DNA hybrid活性に依存してDNA複製活性が検出された。(3) RNaseH変異株において第二の複製系に依存して生育する時、正常な複製経路に比較して変異率が上昇している可能性を見出した。 2) 他生物におけるG4/RNA-DNAハイブリッドによる複製開始の検証と複製開始ユニットの合成生物学的再構成 (1) pSC101ts plasmidは、30°Cでは複製するが42°Cでは複製できない。しかし、RNaseHの変異株では、42°Cでも弱く複製し生育を支持した。(2) 同じplasmidは野生型の抽出液では複製できないが、RNaseHの変異株の抽出液では、転写に依存したDNA複製が観察された。このことは、Plasmid DNA上においてもG4/RNA-DNAハイブリッドに依存した複製が進行し得ることを示す。
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今後の研究の推進方策 |
1)G4/RNA-DNAハイブリッドに依存したDNA複製機構・生物学的意義の解明 (1) T7 RNAポリメラーゼによる転写に依存してRNA-DNAハイブリッドを形成し、複製を支持できるかどうか、細胞レベルで証明する。(2) RNaseH欠損株の抽出液で観察されるRNA-DNAハイブリッドに依存した複製開始反応を精製タンパク質から再構築する。関与する既知の複製タンパク質に加えて、要求される未知のタンパク質を同定する。(3) RNA-DNAハイブリッドに依存したDNA複製をRNAaseH変異の背景で局所的に誘導し、その部位の変異率を野生型の複製と比較し、変異率が上昇しているか検討する。 2)他生物におけるG4/RNA-DNAハイブリッドによる複製開始の検証と複製開始ユニットの合成生物学的再構成 (1) 1)で構築した、複製開始ユニットを用いて、大腸菌細胞内でのplasmidとしての複製を指標に、複製に必要な最小ユニットを同定する。(2) 他細胞において、同定した複製ユニットによりDNA複製開始を構築できるか検証する。酵母においては、自律複製因子として保持できるかを検証する。動物細胞においては、一過性複製をDpnI切断により複製分子を検出するか、局所的なBrdUの取り込みで複製を検出する。
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