公募研究
植物は葉など側生器官を周期的に生み出すが、古くなった器官を老化させ、その過程で生じる物質を再利用して新器官をまた生み出す。この「器官の老化と新生」の周期を断ち切る「個体発生の最後の変調」が「個体の枯死の開始」すなわち「個体全体の老化」である。老化進行は各器官や個体発生と密接に関連する現象であるはずだが、従来の老化研究では器官を丸ごと扱う解析が主であり、近年の発生学で扱うような細胞種レベルの解像度での理解は進んでいない。また、老化における植物ホルモン類の作用に関する研究は多いが、古典的植物ホルモン類以外の新制御経路の発見は滞っている。また、植物ホルモン類は老化以外の様々な発生過程や環境応答でも働き、その量やシグナル経路の活性は植物体内や器官内で常に変動するが、老化すべき時までそれら老化開始活性を持つホルモン類が老化を無闇に作動させない仕組みは未解明である。本研究ではこれらの課題に取り組む。独自に同定した新規受容体ファミリー(GREKファミリー)の解析を行ったところ、まず、grek1 grek2二重変異体(grek1/2)では葉のサイズが小さくなるとともに葉の老化が著しく早まり、一方でgrek1/2/3/4四重変異体では個体全体が急速に老化した。老化刺激ホルモンとして知られるエチレンとジャスモン酸の各経路がgrek1/2での葉の早期老化に関わるのかを調べたところ、grek1/2の葉の早期老化にはどちらのホルモン経路も働く必要があることがわかった。さらなる検証の結果、grek1/2ではジャスモン酸に対する応答性が上昇しているとも判明した。すなわち、GREK1/2の関わる老化にはエチレンとジャスモン酸の両経路の活性化が必要であるものの、GREK1/2はジャスモン酸経路の応答を抑制することで老化を抑制していると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
GREKファミリーの各組み合わせの変異体の老化の表現型に関わる諸経路が見え始めてきたことから、研究は順調に進んでいると判断している。
GREKファミリーがジャスモン酸経路を抑制する詳細なメカニズムを明らかにする。また、葉におけるGREK1/2の発現解析も進んでおり、GREK1/2は複数の細胞種で発現することが明らかとなっている。そこで、grek1/2背景において様々な細胞種特異的プロモーターでGREKファミリーの機能を回復させる実験を行い、GREKファミリーが老化制御において働く必要のある細胞種を突き止める。このようなgrek1/2を用いた解析から見えてくる制御機構に関して、grek1/2/3/4四重変異体でみられる個体全体の老化でも同じ機構が働いているのかの解析にも着手する。
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