研究領域 | 細胞システムの自律周期とその変調が駆動する植物の発生 |
研究課題/領域番号 |
20H05410
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
篠原 秀文 福井県立大学, 生物資源学部, 准教授 (40547022)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植物 / ペプチドホルモン / 受容体 / リガンド-受容体ペア / ゼニゴケ |
研究実績の概要 |
ゼニゴケは環境を感知して平面的な栄養成長から生殖成長へと相転換するが、栄養成長から生殖成長へ変調する際の頂端部の制御機構は明らかになっていない。高等植物同様に、ゼニゴケ頂端メリステムの制御にペプチドホルモンと受容体のペアが関わる可能性を考え、ゼニゴケのペプチドホルモンの同定に着手した。ゼニゴケ無性芽培養液のペプチドミクスを行い、ペプチドホルモン候補としてペプチドAを同定している。ペプチドA過剰発現株は分岐が亢進すること、生殖器形成が抑制されることを見出し、ペプチドAがゼニゴケの成長を変調させる可能性が示された。またペプチドAを直接結合する受容体を同定し、ゼニゴケ頂端部の周期的成長を司る新規なペプチドホルモン-受容体ペアを明らかにした。本年度は、同定したペプチドA-受容体ペアの機能解析を進め、ゼニゴケの成長を変調させる新たな情報伝達機構を明らかにすることを目的とする。 当該年度は、ペプチドAー受容体ペアが担うゼニゴケ葉状体形態形成の機能解析を行うため、CRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集により、ペプチドAおよびその受容体をノックアウトしたゼニゴケを作出した。ペプチドA遺伝子ノックアウト株を用いた培養液のnano-LC-MS/MS解析によるペプチド検出の有無の確認および表現型の観察、また受容体ノックアウト株を用いた表現型の観察とペプチド外的投与による応答能の評価を行った。加えて双方の遺伝子の発現部位を明らかにするためのプロモーターレポーター株も作成し、観察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集により作出したペプチドA遺伝子ノックアウト株の培養液からはペプチドAの成熟型構造が検出されないことを確認した。またペプチドA遺伝子ノックアウト株は、葉状体の分岐が減少するという表現型を示した。ペプチドA遺伝子の過剰発現株やペプチドAの外的投与では分岐が亢進するため、過剰発現株とノックアウト株で逆の表現型が示された。また受容体ノックアウト株も作出して観察を行った結果、ペプチドA遺伝子ノックアウト株と同様に分岐が減少する表現型がみられた。また受容体ノックアウト株はペプチドAの外的投与に非感受性であることも確認された。これらの結果から、ペプチドAー受容体ペアは、ゼニゴケにおける葉状体分岐を正に制御するリガンド-受容体ペアであることが示された。またペプチドAおよび受容体のプロモーターレポーター株を作出して観察を行った結果、双方ともゼニゴケの成長点である頂端細胞周辺で特異的に発現していることが示された。以上の結果から、ペプチドAはゼニゴケ頂端部で発現し、同じく頂端部で発現する受容体に結合・認識されることで情報伝達を行い、葉状体分岐の数もしくはタイミングを制御していることが示唆され、新規ゼニゴケペプチドホルモンの同定と機能解析は順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ペプチドAー受容体ペアが担うゼニゴケ葉状体分岐制御機構を詳細に解析するため、以下の実験を行う。①頂端部の詳細な形態観察。ペプチドA、受容体の双方が頂端部で発現し、葉状体の形態形成に関わることが示唆されたことから、頂端部での細胞分裂および分化の調節に関与している可能性が考えられた。そこでゼニゴケ野生株であるTak-1、ペプチドA遺伝子過剰発現株やペプチドA外的投与株、および受容体ノックアウト株について、頂端部に焦点をあてた共焦点レーザー顕微鏡による観察、またEdU取り込み実験による細胞分裂頻度の比較観察を行う。②比較トランスクリプトーム解析。ゼニゴケ野生株、ペプチドA遺伝子過剰発現株、受容体ノックアウト株を用いた比較トランスクリプトーム解析を行う。ペプチドA過剰発現株で誘導され、かつ受容体ノックアウト株で抑制される遺伝子、またはその逆で、ペプチドA過剰発現株で抑制され、かつ受容体ノックアウト株で誘導される遺伝子をピックアップし、各遺伝子の時空間的な発現パターン、ノックアウト株の作出と葉状体分岐への影響を調べる。
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