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2020 年度 実績報告書

時計に依存する発生制御ネットワークアトラス

公募研究

研究領域細胞システムの自律周期とその変調が駆動する植物の発生
研究課題/領域番号 20H05411
研究機関名古屋大学

研究代表者

中道 範人  名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (90513440)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2022-03-31
キーワード植物 / シロイヌナズナ / 概日時計 / 周期 / 変調 / トランスクリプトーム
研究実績の概要

我々が独自に得ている標的分子が未知の時計短周期化化合物を、16時間明/8時間暗あるいは8時間明/16時間暗で生育した発芽後1週齢のシロイヌナズナに処理し、RNAseqを行った。時計遺伝子の発現位相は前進する傾向があったが、特に朝方から朝に発現ピークを持つ遺伝子についてその効果が顕著であった。また位相前進効果は、16時間明/8時間暗よりも8時間明/16時間暗で育てたシロイヌナズナに顕著に認められた。以上より、この時計短周期化化合物は、明暗条件下でも時計の位相を十分に前進させる働きがあることが示唆された。
短周期化合物を処理して発現が変化する遺伝子群を抽出し、さらにこれらの中から発生に関与する遺伝子群を得た。一般に植物は低分子化合物を認識すると、それを無毒化し排出するシステムを発動させる。このようなカテゴリーの遺伝子発現変化を除くため、非活性型の化合物のRNAseqも行い、最終的に短周期化化合物で変化する発生関連遺伝子を選抜した。これら遺伝子には花成ホルモンFTや、花の形態形成に関わるMADS box遺伝子、根の発生に関わる遺伝子などが含まれていた。一般にFTによる花成が誘導されてから、花の形態形成遺伝子の発現が誘導されるという理解であったが、興味深いことにtf tsf二重変異株も、短周期化合物に依存してMADS box遺伝子の誘導が見られた。したがって、花成ホルモンを介さずに時計は花の形態形成を制御するという新たな分子経路の存在が示唆された。
また、8つの時計転写因子のChIPseqデータを統合し、時計転写ネットワークの全貌を俯瞰する準備を整えるとともに、その知見を総説論文として発表した (Nakamichi, Genes, 2020)。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

我々が独自に得ている標的分子が未知の時計短周期化化合物を、16時間明/8時間暗あるいは8時間明/16時間暗で生育した発芽後1週齢のシロイヌナズナに処理し、RNAseqを行った。その結果、この時計短周期化化合物は、明暗条件下でも時計の位相を十分に前進させる働きがあることが示唆された。時計は24時間周期の明暗環境にリセット(同調)するしくみがあるが、これを乗り越えて時計短周期化化合物は時計に作用する強力な活性が明らかとなったから。このような強い活性をもつ時計調節化合物は、これまでに報告されておらず、貴重な化合物を得たと結論づけた。
さらに、短周期化合物を処理して発現が変化する遺伝子群を抽出し、さらにこれらの中から発生に関与する遺伝子群を得た。これら遺伝子には花成ホルモンFTや、花の形態形成に関わるMADS box遺伝子、根の発生に関わる遺伝子などが含まれていた。一般にFTによる花成が誘導されてから、花の形態形成遺伝子の発現が誘導されるという理解であったが、興味深いことにtf tsf二重変異株も、短周期化合物に依存してMADS box遺伝子の誘導が見られた。したがって、花成ホルモンを介さずに時計は花の形態形成を制御するという新たな分子経路の存在が示唆された。以上のように、ユニークな化合物を利用した研究によって、時計からの出力経路の制御において新たな分子経路が見出されたことが徐々に明らかとなってきたから。

今後の研究の推進方策

時計から花の形態形成への新たな分子経路を、時計変異体や遺伝子誘導形式転換体の表現型解析および遺伝子発現解析などによって解明する。特に、tf tsf二重変異株も、短周期化合物に依存してMADS box遺伝子の誘導が見られたことに着目する。ft tsf二重変異体に早咲きの時計変異体もしくは時計遺伝子過剰発現体を掛け合わせた株を作出し、時計がft tsfに非依存的にMADS box遺伝子の発現を誘導できるかを検討する。さらに時計変異体、ft tsf変異体、上記で作出する多重変異体での、MADS box遺伝子の発現する時刻や発生タイミングを解析する。また各種変異体での、MADS box遺伝子の発現する器官や組織、細胞をレポーター株を用いた解析で決定する。
上記の解析で新たな制御経路の概要がつかめたら、時計からMADS box遺伝子の転写に至る分子経路を、転写因子のChIPseq解析などによって明らかにしていく。すでに前年度までに植物全体を使った時計転写因子のChIPseqデータを統合しているが、これに加えてMADS box遺伝子の発現する器官や組織を濃縮したサンプルでのChIPseqを加える。また
発生の鍵転写因子のChIPseqデータを時計転写因子データと統合させることにより、時計と発生の関連性を遺伝子制御ネットワークで俯瞰できるデータベースを構築する。以上の取り組みにより、時計によるMADSbox遺伝子の発現制御までの分子経路を解明する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] The singularity response reveals entrainment properties of the plant circadian clock2021

    • 著者名/発表者名
      Masuda Kosaku、Tokuda Isao T.、Nakamichi Norihito、Fukuda Hirokazu
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 12 ページ: 864 (7pages)

    • DOI

      10.1038/s41467-021-21167-7

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] The Transcriptional Network in the Arabidopsis Circadian Clock System2020

    • 著者名/発表者名
      Nakamichi Norihito
    • 雑誌名

      Genes

      巻: 11 ページ: 1284 (13pages)

    • DOI

      10.3390/genes11111284

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 有用品種から紐解く植物の概日時計メカニズム2020

    • 著者名/発表者名
      中道範人
    • 雑誌名

      化学と生物

      巻: 58 ページ: 646-648

    • 査読あり
  • [学会発表] 時計撹乱化合物の作用機序2021

    • 著者名/発表者名
      中道範人, 松尾宏美, 大野梓, 前田明里, 佐藤綾人, 伊丹健一郎, 木下俊則, 山口潤一郎
    • 学会等名
      第62回日本植物生理学会年会
  • [学会発表] シロイヌナズナの概日時計の温度補償性が減衰した変異体について2021

    • 著者名/発表者名
      前田明里, 松尾宏美, 木下俊則, 中道範人
    • 学会等名
      第62回日本植物生理学会年会

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公開日: 2021-12-27  

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